カテゴリ:その他雑考
犯罪組織のアルバイト(闇バイト)募集が問題となっています。
「闇バイトと知りながら加わってしまう」というのもそうですが、「闇バイトと知らずに加わってしまう」と言うタイプも多いのです。 特にこの手の闇バイト募集が多い特殊詐欺については、7年前に「オレオレ詐欺と加害者予備軍教育」という記事を書かせて頂きました。 7年も前から話題にしていた…と言っても、別に私に特別な先見の明があったというわけではなく、刑事弁護をそれなりにやっていれば、特殊詐欺のアルバイトをして逮捕・勾留された者の弁護をする事態は起きるもので、私自身も複数経験しています。 なので、それなりに刑事弁護をするのであれば、「アルバイトとして人に犯罪をさせる組織」の動向に無関心というわけには行きません。 無論、一介の弁護士に最新の犯罪組織の動向などが入るはずはありませんが、様々な記事や事件経験の類から、特殊詐欺組織がどういう勧誘の手口を使ってくるのかについて、私は人並みよりは詳しいはずです。 その見地から、闇バイト募集に引っかかってしまう一番危険な発想を指摘しようと思います。 それは、「闇バイト募集に自分は引っかからないと信じ込む」ことです。 もちろん、それはこの記事を書いている私自身さえも例外ではありません。 今の私はバイト探しはしていませんが、生活に困ったとかで「適当なアルバイトを探してみよう」みたいな形でアルバイト探しをしたら、闇バイトに引っかかってしまうかも知れません。 確かに闇バイトは「誰もが引っかかる」わけではありません。 しかし、「自分が引っかかる側にいない」という保証もない以上、警戒心を持たないわけには行かないのです。 しばしばこの手の話題になると、「自分は引っかからない」とかたくなに信じ込んでしまうタイプの人達が現れます。 現実に闇バイトと知らずに引っかかった人達の存在を指摘しても、 「自分は手口を知っているから大丈夫」 なんて風に考えれば、精神的には安心できるためでしょう。 受け子の類が特殊詐欺のバイトに引っかかって有罪になったという記事がニュースに流れる度に、受け子の類をゴミクズのように貶す人達は、おそらくそんな風に考えているのだと思います。 まあ人間として、もっともらしくて安心できる思考に飛びつくのは、無理もないところはあるでしょう。 しかしながら、それは敵が進歩しないアホであることに期待した全く幻想の安心感であり、そんな安心感で安心を得られるのはそれこそアホの特権です。 まず、犯罪組織は、アルバイトを少人数リクルートできればひとまず成功です。 闇バイトの闇サイトはリクルートを多方面に飛ばしているようなもので、闇サイトを見た100人のうち、1人でもリクルートできれば十分な成果があると言うことができます。 ところが、一般人視点からはそうはいきません。手を変え品を変え、勧誘者自体も変わって、すり寄ってくる闇バイト勧誘100回を100回ともはねのけなければならないのです。 100回中99回はねのけたところで、1回引っかかれば、それだけでアウト。 その1回で裁判で有罪、刑務所直行、前科と破産免責もされない膨大な債務を抱えたマイナスから人生リスタートです。それまで99回はねのけたことは何の評価もされません。 攻撃と防衛ではは基本的に時間も場所も対象も選べる攻撃側が有利であり、時間も場所も対象になるかも選べない防衛側が不利なのです。 加えて、犯罪組織の駆使する勧誘手口は日進月歩である可能性があります。 全ての勧誘手口が表社会に出てくるわけではありませんから、進歩した手口など一般人には分かりません。また進歩した手口が登場したからと言って、旧来の手口が絶滅するとも限りません。 今問題になっているのは闇サイトによる勧誘ですが、私の担当した事件では闇サイト経由ではなく、「友人・先輩経由で教わったバイトが特殊詐欺だった」ケースの方が多いです。 私の体験でそれが多いのはたまたまなのかも知れませんが、闇サイトが出てきたからと言って、「友人・先輩経由で勧誘する」手口が絶滅するとは思えません。 多くの人にこそ見てもらえるが信頼感の薄い闇サイト経由と異なり、友人先輩経由は住所なども把握されている上、信頼感が段違いのため引っかかりやすさは闇サイトより高いと思われます。 それに、警察すら新しい手口を把握できていない、あるいは把握できていても広めることで他の犯罪組織に手口を教えてしまう危険もあるため、公にしていない可能性もあります。 実際、特殊詐欺は金銭を振り込ませる振り込め詐欺へと進化し、更に振り込め詐欺への啓発が進んで振り込まれなくなった今度は金を渡させるタイプの特殊詐欺、更には事前に警察に張り込まれるリスクの低い強盗と、有名なところでも犯罪組織の手口は進化してきています。 特殊詐欺の受け子待ち伏せ作戦が浸透したと思えば、今度は待ち伏せ作戦の警察を装った特殊詐欺すら登場するいたちごっこで、犯罪組織は同じ手口を機械的に繰り返すアホではないのです。 そんな悪い条件で戦う相手に対してそんな風に「自分は引っかからない」と信じ込むことは、単なる「無警戒」に転化し、本当に引っかかってしまうと言う事態が起きてしまうと言うわけです。 せっかくこう言うアルバイトは危ないよ、と具体的な手口を教えても、「自分は引っかからない」と思えば、こうした忠告は右から左に受け流されてしまいます。 それどころか、虚心坦懐に「そういえば闇バイトってあったな。このバイト怪しくない?」と思えば手を引くことができたのに、「このバイトは一般的には怪しい。だが、特殊詐欺について詳しい俺の見る目には叶ったから大丈夫!」となって、逆に知識が自分を危険に追いやる危険性だってあるのです。 なまじ特殊詐欺について知識があった分、「騙されて加わったんじゃなくて、自分から詐欺に加わって儲けようとしたんじゃないか?」なんて思われてしまう可能性さえあります。 うまい話に飛びつく人の心理については、「詐欺師の話術や作話があまりにもうますぎて全く疑うこともなく信じてしまった」というものではなく、「最初は「本当かな?」と疑ってかかったのに、目の前の人が誠実そう・いい人そうだから」という心理から、せっかく疑いの心理が活動したのに上書きしてしまい、結局引っかかる…という方が圧倒的に多いと言う指摘もあります。 特殊詐欺被害者(親族や銀行関係者などの見破りで防げたケースも含む)に目を向ければ、実に95%もの人達が「特殊詐欺については知っていたが、自分は大丈夫だと思った」と言う心理であるというアンケート結果が出ています。 つまり、「知っているが、自分は引っかからない」という心理の人達が圧倒的多数の被害に遭っているのです。 当然、この心理は「バイトの勧誘側」であっても同様に働いてもおかしくありません。 どうか、敵をアホだと信じ込むアホの特権に縋って加害者側でも「自分は犯罪組織の闇バイトに引っかからない」と言う認識は絶対に捨てて欲しいのです。 もちろん、この記事を読んでも、そうなんだと認識を改められる人は少数でしょう。 元々そう思っていた人はウンウンとうなずいてくれたり、全く知らなかった人はそうなのかと思ってくれるかも知れませんが、「自分は引っかからない」と思っている人を改心させられる可能性は低い…というか、「犯罪者擁護する弁護士の戯れ言」扱いされて読んですらくれないと思います。 ただ、自分の人生と被害者の人生両方が台無しになるような事態が一件でも避けられるならそれに越したことはないと考えて、一筆書かせて頂きました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023年03月22日 23時00分06秒
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