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あすとろ日記

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カテゴリ:棋譜(プロ)
この一局は、井上因碩(幻庵)が「碁所を逸した持ちこみ」で有名な対局(らしい)。

今回、「名人名局選 秀和」で並べてみて、どこかで見た気がすると思い、手元にある棋書を

あたってみた。相当有名な一局であるらしく、私が持っているものだけでも次の本に掲載され

ていた(まだ読んでいないものが殆どなんだな、これが)。

1.「囲碁史談-運命の一手88選」 福井正明八段(当時)監修、平成元年

2.「古典名局選集 英傑幻庵因碩」 安倍吉輝九段、平成3年

3.「古典名局選集 堅塁秀和」 福井正明八段(当時)、平成7年

4.「囲碁百名局上巻」 高木祥一九段監修、平成12年

5.「依田流並べるだけで強くなる古碁名局集」 依田紀基九段、平成20年

そして今回図書館から借りてきた、

6.「名人名局選 秀和」 福井正明九段、平成21年

(ちなみに「日本囲碁大系14秀和」には掲載されていない。「日本囲碁大系11幻庵因碩」

に掲載されているようだが、こちらは持っていない。)

それぞれのプロによって微妙に解説が異なる部分がある。また、上記6冊のうち3冊は福井九

段によるが、同じ福井九段でも、解説の内容が変わっていて、読み比べてみると面白い。


さて、手合いは本因坊秀和の先相先(先先先)先番、井上因碩(幻庵)が白番。


(ハイライト1)

左辺白1の肩ツキから激しい戦いに突入。物すごい迫力だ。
秀和003_1.jpg
白31のボウシに回ったあたりでは白が快調らしい。

しかし、この直後に因碩に打ち過ぎの手が出てしまい、秀和に反撃の機会を与えてしまう。

ちなみに、高木九段や福井九段はこのボウシを「当然」あるいは「絶好点」と評しているが、

安倍九段は「ちょっと固い所へ行きすぎた緩手」で、右下Aが「最後の大場」としている。
秀和003_2.jpg
(ハイライト2)

秀和が黒1と構えた途端、白2の突入である。

ここで白8に黒9が「秀和のポン抜き」で「昔から論議を呼んでいる一手」(高木九段)。

安倍九段は黒1の「広げた手と矛盾している」としつつも、これで勝ちとみた判断に感服する

とあり、高木九段と福井九段も、秀和の形勢判断力を称えている。
秀和003_3.jpg
白1のハネから白は生きたが、黒34まで右辺の黒地が大きくまとまり、細かいながらも、黒

勝勢らしい。
秀和003_4.jpg
(問題の場面)

普通にヨセて黒1目勝ちという形勢で、白1と手をつけたのが「未だに歴史のナゾ」(依田九

段)とされる。

手になればもちろん白が勝つが、黒2と受けて手にならず、すべて持ち込みになったのだ。

結果、5目強の損をして、白6目負けとなった。

手にならない所に、なぜ因碩は手をつけたのか。

因碩の見損じという説もあるようだが、上記に紹介した解説者は概ね、1目負けを分かってい

て、あえて持ち込みをした、そこに因碩の無念さが表れている、との見解のようである。
秀和003_5.jpg
ところで、この隅に手が無いことを、どれだけの方が読めるだろうか。ちょっとした問題だと

思う。安倍九段によれば「私が院生時代はっきりしなかった覚えあり」と書いている。一方、

依田九段は「秀和がこんな簡単な詰碁が分からないわけはない」と書いていて、ああ、プロ

にはこの手の変化はひと目なのかと思った。

ちなみに、福井九段は上記1の本では、黒2でAでも「手はないが、味が悪いうえ白のコウダ

テがふえる」と解説していたが、「6の名人名局選 集和」では、黒Aの受けだと白からコウ

にする手が生じ、コウにしなくともヨセで白が得を図れると、より詳しく解説している。

それにしても中身の濃い面白い碁だった。幻庵因碩の碁では、秀策との耳赤の一局と比べても

劣らないものではなかろうか。





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Last updated  2009.02.19 01:32:07
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