|
カテゴリ:意識・意識障害
○○学会に発表した原稿です。
内容的に難しくなっておりますが、ご不明な点あれば掲示板にてご質問下さい。 意識障害に対するリハビリテーション - 急性期病院での対応の仕方- 【はじめに】 近年では救急医療の普及により、脳血管障害等の脳損傷者でも延命が図られるようになった。だが損傷部位や損傷の程度よって重度の意識障害を有し、遷延性意識障害として後遺症を残す場合がある。永山は上記の中でも回復の可能性がある症例を、可逆性遷延性意識障害として臨床像を報告し、遷延性意識障害に対するリハビリテーションとして野田は音楽運動療法を蘇生リハビリテーションと位置づけている。今回我々は、音楽運動療法を実践する機会を得たのでこれを紹介し、その他の意識覚醒の手段も含めて急性期病院における意識障害への対応方法を模索したい。 【意識障害とは】 意識障害は、内因・外因性刺激に対する神経機能の反応性の障害とされ、意識レベルの異状と意識の変容または質の異状が知られ、様々な病態で生じる。永山はその原因として大脳皮質の広範な障害、上行性網様体賦活系の障害等を挙げている。 上行性網様体賦活系は感覚経路の中継点、すなわち脳幹から大脳半球へ投射する経路である。この投射系を強烈に刺激し、意識障害を改善・植物状態脱却の可能性がある方法として野田は音楽運動療法を提唱している。 【音楽運動療法】 音楽運動療法とは、音楽生演奏の下にトランポリン上下運動を実施し、この上下運動による前庭器からの強烈な平衡感覚刺激、及び音楽による聴覚刺激、またそれが扁桃体に直接作用して情動を促通する刺激が、総合刺激となって上行性網様態賦活系を刺激する方法である。 【症例】 入院時JCS 20点の意識障害、四肢麻痺を示した。入院後穿頭術による膿瘍ドレナージ等の外科的手術を受けるが、意識レベルは改善せず。 理学療法は入院第10日目より開始、言語・作業療法もそれぞれ開始した。音楽運動療法は全ての外科的処置が終了し、全身状態が安定した第287日目より週1回30分程度を開始、その開始時においても意識障害JCS20点、四肢麻痺状態を示した。 【意識障害の評価方法の紹介】 意識障害の評価方法として、日本意識障害学会が提唱している、植物状態スコアリングを使用した。 【考察1:音楽運動療法後に見られた効果】 音楽運動療法実施後の主な効果としては、硬直傾向にあった四肢筋の筋緊張が解放、また姿勢調節筋の活動が促通された様子が観察され、普通車椅子での体幹・頚部保持が一時的ではあるが可能となった。 植物状態スコアリングでは、音楽運動療法を開始して3回目頃よりわずかながら変化が見られ始めた。開始後第72日目が当院で最終回となったが、眼球運動に追視反応・手足の無意識的な動き・意味のない発声が見られる回数が増え、状態スケール3→6点、反応スケール2→8点へ変化が見られた。これは音楽運動療法の他、ご家族の協力を得て特殊感覚等を用いた刺激方法の継続を補助的に実施し、ご家族も毎日欠かさず特殊感覚刺激などを与え続けたことがスコア改善につながったと考えられる。 【意識覚醒を促す方法 1】 今回我々は音楽運動療法の他、従来のリハビリテーションも実施してきたが、意識障害を有している者は、軽度であっても積極的な内容の実施が困難である場合が多い。また病棟での療養生活においても外的な刺激が入りにくい状況であることが多く、スタッフによる声かけや音楽などの刺激を用いることも実施している。その他、健常者も含めて、脳波・脳血流に変化が認められたスライドにある方法も実施した。 【意識覚醒を促す方法 2:日課表の作成、スヌーズレン】 日課表の作成 紙屋は意識障害患者を、『重複生活行動障害者』と看護学的に規定し、遷延性意識障害患者支援プログラムを開発している。一般的に我々が日々繰り返すことによって獲得された習慣性の高い学習行動を、意識障害患者においても同じ条件下で、同じ刺激を繰り返し提供することによって、ある種の生活行動を獲得できるであろうという仮説に基づくものである。 五百崎らも紙屋の研究を基に、日常生活の中での運動・感覚刺激を組み入れた日課表を作成し生活援助を行った結果、意識内容(感情・意欲・知能)の回復に変化が見られたと報告している。 24時間刺激を与え続けるスヌーズレン(オランダ) オランダのハンテンベルグセンターから開発・発展しているスヌーズレンは、手の機能訓練など、障害とされる範囲を対象として集中的に行ってきた従来の治療・訓練とは異なり、すべての感覚を直接用い、すなわち視覚・聴覚・触覚・運動感覚などの感覚が統合したコンパクトな形の刺激として、受動的にも外界から受け続けることが可能である環境整備をいう。 【急性期病院での対応】 以上を考え合わせると、意識障害者への急性期病院の対応として、 1 体性感覚刺激入力を利用しながら特殊感覚刺激入力を加え、感覚入力の増強を誘発するような プログラムを、生活リズムを取りながら実施する。 2 病棟で看護師がおこなうケア、特に清潔ケアにおいても、身体的のみならず心理的側面も含め て快適刺激となるよう配慮する。 3 ただし健常人にとっては快適刺激になる内容であっても、その種類・連続的な量によっては、 損傷された脳神経にとっては過負荷となり、不快刺激から侵害刺激につながる可能性があるの で、配慮が必要である。 【環境を考慮する】 また意識障害患者は受動的な療養環境にならざるを得ないことを考え合わせると、 1 音・光・香り等の刺激が優しく入力されやすいように環境設定する。 2 それが快適刺激となれば、リラクセーション効果や副交感刺激効果となり、内因性ホルモン放 出からドパミン作動性神経・A10神経作動につながり、シナプス形成促進・再生や意識再覚 醒の可能性となるきっかけとなるのではないかと考える。 3 ここに述べた上記の内容は意識障害患者のみならず、脳血管障害等の脳損傷患者等の機能回復 につながる可能性を残しており、援助をするスタッフ側にとっても 癒し効果 につながり、 スタッフ側から他の患者においても良質なケアを提供できるきっかけと考える。 【まとめ】 1、遷延性意識障害を有する患者様に音楽運動療法を実施し、紹介した。 その結果、わずかながら植物状態スコアリングにも変化が認められた。 2、意識障害からの脱却を図る方法として音楽運動療法にその可能性があるが、従来のリハビリテ ーションでは不足している部分もあり、それを補充するものとして平行してスヌーズレンの環 境設定等を利用できれば、高い治療効果が得られると考える。 3、意識障害を有する患者に対して快適な環境が設定できれば、リラクセーション効果や 副交感刺激効果となり、援助をするスタッフ側にとっても 癒し 効果となる。 【参考文献】 1、野田 燎、後藤幸生:脳は甦る-音楽運動療法による甦生リハビリ.大修館書店,2 000 2、後藤幸生:音楽運動療法による遷延性意識障害の甦生リハビリ.脳と循環 5:3 31-337,2000 3、紙屋克子:意識障害患者の看護プログラムの開発と実践.EB NURSING 3:121-12 8,2003 4、五百崎佳津子、他:遷延性意識障害者の感覚刺激による意識回復の援助.第29回老人看護: 131-133,1998 5、河本佳子:スウェーデンのスヌーズレン.新評論,2003 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006.11.29 22:41:04
コメント(0) | コメントを書く
[意識・意識障害] カテゴリの最新記事
|