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テーマ:本のある暮らし(3309)
カテゴリ:Other topics
(講談社文庫,上下巻)
村上春樹の文章は正直言って好きじゃないが,人に勧められたので渋々読むことにした。実際に勧められたのは「ダンス・ダンス・ダンス」だけれど,これは「羊をめぐる冒険」のつづきでもあることを知ったのと,物語舞台のひとつが北海道ということで興味がわき,せっかくだから「羊」も読もうかと思った。 本作もよくわからない点が多くて,素直に面白いとは思えなかったけれど,そういう不可解なものを自分の頭でなんとか把握しようともがくのは好きなので,それは欠点にみえてもやがて魅力に変わるかもしれないとは思う。 * むかしむかし「羊」という,権力を求める妖怪的なアレがおったとさ。「羊」は,ここ何十年も取り憑いていた権力者の体から,最近なぜか抜け出したそうな。 主人公は,逃げた「羊」の居場所にかんする手がかりを偶然拾う。「羊」を求める権力者の側近は,彼に「羊」を探させようとする。主人公は渋ったが,恋人に促されて「羊」探しの北海道旅行にでかけましたとさ。 目的地にたどりついたものの,そこで主人公は途方に暮れた。そもそも「羊」はどんな形で存在するのか,人間に取り憑いているのか,会えば「羊憑き」と分かるのか,もし人間に憑いてないなら,どうやって捕まえるのか。 このへんがあいまいなまま,物語はどんどん進む。「羊男」なるものが登場するに至って,ああこれこそ「幻想ホラー」というジャンルなのではないかと思った。 そうなのかい,長門。 , ^ `ヽ イ fノノリ)ハ 「……」 リ(l|゚ -゚ノlリ / il 旦~~ * 文庫版上巻の始めの方はほんとうにつまらなくて,謎ときに関係する手紙の部分はほとんどおぼえていない。それは私が悪いが,手紙の主が主人公の語り口と似ているせいもあり,登場人物の数とか,お互いの関係などが把握しにくい。 私の不真面目さを差し引いても,主人公をめぐる個人描写(回想やモノローグ)と,謎解き部分との関連付けがどうにも分かりづらい,バランスが悪い,という気がする。 * とはいえ,面白い部分も結構あった。北海道の小さな村の開拓の歴史と,現代の田舎の描写が重ねあわされる場面だ。その村へと向かう列車行の途上で見られる,退屈で空虚で不快な,取るに足らない物件たち,人間の生態について,ねちねちとした描写が実にリアルで,痛快だった。 その文章を読めば,「北の国から」では捨象されてしまった瑣末で空疎な物件たちを,心ゆくまで楽しめる。つまり,現実の田舎の人間たちはそうした無意味ながらくたの中でもがいているんだ,という感慨をしみじみ味わえるのです。 リアルだなあ,良く見てやがんなあ,と感心すると同時に,しょせん都会の知識人にとって,辺境のクソ田舎の風景や人間なんてものは非現実的で,「羊男」なんてものにお似合いのファンタジックな背景なのかもしれないという卑屈な気持ちもある。 ただ,私の知ってる地元の現実と,物語とがシームレスにつながっている不思議な感じ,その感覚は面白かった,そういうことです。 * お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2012.05.04 17:27:18
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