「町でうわさの天狗の子」 9巻 岩本ナオ
*ユカリ 「ミドリちゃんはさ 小学校んとき週6 習い事してたじゃん」 「嫌じゃなかったの」 「日が暮れるときに 友達といないのってさみしくなかった?」ミドリ 「あたしは…」*はっきり言って「天狗の子」を馬鹿にしていた。3巻あたりで急につまんなくなって,もう買うのやめようと思った。なにしろ「スケルトン・イン・ザ・クローゼット」と「Yesterday, Yes a Day」がとにかく傑作すぎたので,「天狗の子」は色褪せて見えたんだ。作者は長期連載のために,描きたくもないようなほのぼの恋愛コメディを描かなくてはならず,だからこそあんな間延びして薄めたようなコイバナ描写なんぞで頁をかせぎ,いつか来る本気の漫画を描くときのために雌伏しているのではないか,などと考えたりした。だが買うのをやめられない理由があった。ミドリちゃんだ。田舎の大金持ちの町長の娘。おかっぱで眼鏡をかけて目つきがよくわからない。口を開けば毒舌を吐かぬことはなく,他人をののしり世間をののしり,なによりも自分のつまらなさをののしっている。私はそんなミドリちゃんが大好きで,たまらなく大好きで,鬼と天狗のでてくるこのおとぎ話の「おしまい」までには,どうか「大切な人と幸せに暮らしましたとさ」という仕儀に相成りますようにと願い,4巻と5巻と6巻と7巻をがまんして買っていた(ひどい)。そんな彼女も,とうとう一つの着地点を迎え,私はなかなかに満足している。おとぎばなしはこうでなくちゃいけない。おとぎばなしはこうでなくちゃいけない。大事なことだから繰り返してみた。*