『治療の書』(7)
『治療といふこと、いつも人の体の自然の働きによらざる可からず。護ること庇うこと出来て、鍛えしむること突き放すこと出来ざるは彼をして独りたたしめざる也。治療のこと人を強くする為に導く也。時につき放し、背くこと必要也。然るに親切第一にすると称して同情の押し売りをし、彼を慰め、お大切にといへば親切のつもりの人あるも、治療するも者の親切は彼をして独りたたしむるのみ親切也。その為に冷淡も不親切も、彼の為、それを用ふるが是也と信ずる時は褒貶を度外してすらすら用ひ、彼をして強くする也。同情はひとを弱くしその弱きに快感あらしめ、親切は人を依りかからしめて独り立つ気力を失はしめ、慈悲は治療する者を快ならしむるも受くる者を圧迫し、冷淡は人を憤らせることあるも又奮発せしめ、突き放せば倒れることあるも独り立つ機となることもある也。補ひ庇ひ護ること必ずしも人を強くせず、餓えし人の食を奪ひ、盲人の杖をすてしむること必ずしも不親切に非ず、冷酷ならず、心の表面のことしか見得ざる人は別として、心を感ずるすべての人はこのこと親切なることを知るなり。治療といふこと、この親切に依ってのみ行はる可き也。それ故自分で自分を守る心ありては治療のこと行ひ得ざる也。自分の利不利のみ考へてゐては治療のこと出来ぬ也。慎重も親切も守る可きに守り、捨つ可きに捨て、如何なる時にもこだわることなく、常に白紙に動き明鏡の心に生きてのみ治療のことある也。持つべきものあらばこだわる也。もつべきものなく、こだわる可きもの無く、いつも静かに息してゐること大切也。治療のこと先づ自分を静かならしむる也。』