家族間の愛と憎しみ
ルドルフシュタイナーは、男性のエーテル体は女性であり、女性のエーテル体は男性であるという事を述べています。これは生命力の質について述べていると理解しても構わない事なのですが、私が内科小児科医として患者さんを診てきたこの20年の観察から言うなら、長女のエーテル体は多くの場合父からのものであり、長男のエーテル体は多くの場合母親からのものであると言えます。生命力の質、刺激に対する反応様式が、父親と長女で、また母親と長男で類似するという事です。先日カーナビでふとテレビニュースをみたところ、20代の孫が、「父親と喧嘩してむしゃくしゃして」という理由で祖母の家に放火をしたという事件の報道がなされていました。なぜ祖母の家に、なのか? その謎を解く一つの鍵がこのエーテル力、生命力の共鳴と移転の様式にあるのです。ニュース報道だけでは、放火をした男性の家族構成は不明ですが、この男性のエーテル体は母親に似ている可能性が極めて強いと思われます。放火した男性は川崎市在住で、家に火を付けられた祖母は狛江市に一人ぐらしだったという事ですので、放火した若者はわざわざ狛江市まで出かけていって火をつけた事になります。父親と喧嘩したのに、どうして祖母の家に火を? という疑問が当然湧く訳です。しかし、良く考えてみると、火を付けられた祖母が父親の実の母だというなら、とても納得がゆきます。つまり、この父親の、息子への態度の背景には、この父親に影響を及ぼした祖母の存在があった事になります。いや、それ以上にこの孫息子に対して否定的な言動をとった父親の生命力は、祖母から父親に伝達されたものだという言い方の方が直接的でしょう。これに対して、孫息子が、長男だとすれば彼の中には極めて強く母親の感情エネルギーや行動様式、プログラムが引き継がれていることになります。この状況では、孫息子は嫁姑の間の軋轢や、自分に対して十分に優しさや共感を示さなかった(あくまで仮定的な説明です)夫に対する母親の怒りの発現経路になる事になります。以上のような可能性を考慮すると、今回放火に至った男性の行動の背景に、思考パターン、行動や言葉に関して「祖母と共通項のある父親の存在」、「夫婦のコミュニケーションが不十分であった可能性の高い両親の在り方」、「嫁と姑の確執」などが隠れている可能性があると推察出来ます。このような家族内力動、愛と憎しみの転移のプロセスも、男性のエーテル体が女性であること、女性のエーテル体が男性であることを理解することで見えるようになるのです。今日のこの記録は現実の放火男性の精神分析として書いたものではありません。あくまで、ある事件を見聞きした私の中に浮かんだ、外来でしばしば見かける家族内力動のモデルをその男性の家族内力動に置き換えて述べたものです。今回の放火事件では幸いなことに祖母も火傷などを負わずに助かり、これ以上放火に至った彼の人生が傷付けられたり、追求されたりすることもないだろうと思いますし、その必要もないと私は考えています。けれども、本人でさえ自分の行動が理解出来ない可能性はあり、その背景に家族内での鬱積した愛と憎しみの力のやりとりが隠れている事があるという事を皆さんには知っておいて欲しいと思った次第です。彼と彼の家族の上に平和と回復がありますように。Peace of I石川眞樹夫