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カテゴリ:生きる
江戸の蛎殻町から一帯にかけて、次郎吉親分の名前は鳴りひびいていた。町屋の横丁にしゃがみこんで、激しい昼の日射しを浴びながら、おときは時間をつぶしていた…
ゆうべはここまで書いた。 起きて読み返し、さてこのあとをどうつづけよう、と雑草の影におもいおもい転がって朝寝している猫どもをながめかんがえる。 ひいふうみいよお…あらあ、ずいぶん居るなあ。 子猫は六匹だったはずだが、今朝数えてみると、体の模様と毛の色で、以前に何度も見ている子猫があきらかに数匹見えない。目の前に確認できるのは六匹だが、行方不明がさいてい二匹はいた。すると、子猫は全部で八匹は居るという勘定か。 で、問題は銀次がささやいた謀計の中味だナ、と便器にまたがってふたたび思考。松吉を罠に嵌めて、銀次はどんなトクを得るつもりなのか。とりあえずはゼニだろう。すると、ささやいた謀計の内容のおおよそも見当がつく。 水をじゃーっと流して、さて… 蛎殻町の大店の若旦那といえば、安太郎だ。朝寝の床で銀次はつららつらつらかんがえる。そして松吉は安太郎の幼友達だ。松吉がゼニを持っているといってもたかがやくざなばくち打ちじゃあ、その額もしれている。松吉を餌に安太郎を引っ張り出せれば、五十両くらいは引き出せそうだ。おときが撒き餌で、豚松をはめて、最終的には大店の若旦那からせびりとる。…これがその朝、銀次のラグビーボールアタマに浮かんだ奸計のすべてであった。 …ということでは、どうか? 「なかみをバラしてしまうと、なんかつまらなくないかい?」もうひとりのわたしが冷蔵庫の影から現れて、意見を言う。あらためて見ると、あんがいスマートでわるくない。中の下くらいの男っぷりだ。 「なるほど。それもそうだな」とトイレのドアを閉めながらわたし。しかし暑い。閉鎖空間か。暑いけどモノを考えるにはなぜか便所の空間はぐあいがいい。うーむ、くそ! 「悪巧みの内容をこまごま書かなくても、読者はおおよそ雰囲気でこれから銀次が仕掛ける事柄の見当はつくはずだろ?」 「うーん」あ、紙が切れそうだ。 リリリリーン。 そのとき半ズボンのポッケのなかでケータイが踊った。 「はいはい」 「あーセンセ、いまどこ?」となりの南方クマクスだった。 「いまトイレだよ」 「あのさあ、いまスゴイのはいったんだけど、見に来ない?」 「なに」 「レミントンのさあ…あ、もしかして仕事中かい」 「トイレで仕事はしないよ」とわたし。「きょうは休みか?」 ジャー。もう一度水を流す。 やれやれ。暑いな。仕事もしなくちゃなあ…。そこで決心がついた。 「あのさあ、日本酒無いけど、ビールならあるよ、つまみはセンセ、チーズなんかどうよ…」膝の上に置いたケータイが必死にしゃべくっている。 きょうも暑くなりそうだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006.06.30 11:48:31
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