午前六時、寝室の窓の向こうが真っ赤に燃えている。見事な朝焼けだった。枕元でうちそろって寝ていたトムとジェリーのオスメス二匹の子猫がアルジの気配に気づいて跳ね起きる。一昨日までの凍えるような夜明けの満月から一転して、気温摂氏7度というあたたかい朝だ。はだかのままに隣室へ裸足の足を運べば、硝子窓の外は淡い青とピンクの巨大な縞模様がゆっくりと空中をながれる。しばらくぶりにテレビをつけると、ぼわっと磁気が乾いた空気を脅かして、飛び出したBBCが「火星に水の流れたあと」というニュースを伝えてくる。2001年と2004年の同じ地区を撮ったふたつの写真を比較したところあきらかに水が流れて出来た浸食痕が見られたという。もはや世界中がイラク状態なのだからね、と先日未明の夢に現れた老人が嗤い、その目尻の皺の刻み目に遅れてきた世紀末の涙を確認して、なるほどそろそろこの惑星を捨てて中選挙区から小選挙区に、複数政党制から二大政党制という虚構のカラクリへと梶を切ったこの沈没空母の傷だらけの未来をちょっとばかり考えた。ドイツでは暖冬で冬物衣料がまったく売れないというニュースもあり、とたんに国連の気候変動枠組条約という単語が頭に浮かぶのだった。まったく。やけに揉みでの笑うセールスマン風になった皆様のエヌ・エッチ・ケーの、それでも年がら年中ヒステリー状態な民放よりもいくらかはマシなブラウン管の「おはようにっぽん」や「おはよう世界」が、はたしてこの朝の朝焼けのように爽快であるだろうか。戦争犯罪人たちが世界の首脳でありつづけ、2917名(12/6現在)のイラクでの米兵死者のなかに、いったいどれほどこうした首脳の親族・子弟がふくまれるのか、ゼロであるだろう。近代がはじまっていらいこうした数値はまったく変わりなく、この惑星のグーグルアースの上に屹立するのは巨大な身分制階層社会のピラミッドにちがいない。おもえば1994年、モザイクブラウザが開発されて、それがやがてARPANETからインターネットへ発展を遂げてゆくわけだが、そのそもそもの発端は、米国軍事研究の専門機関であるランド・コーポレーションが国防総省へ出した提案であった。このランド社は1970年代にはかの「鉛管工」グループをあやつってニクソン政権を失脚させ(ペンタゴンペパーズ)、モンロー怪死事件にも名前を連ねているわけで、ジグソーパズルのピースpieceの一片が、なるほど敗戦国の青い空にあらたな一歩(pace)を踏み出せと、オリーブ枝くわえた鳩マークな紙巻きtobaccoのPeACEのピーカン(缶)だったりするのも、JAZZ好きなGHQホイットニー准将の憲法草案なだじゃれなだけじゃなくってさ、ちゃんと理屈が合うわけだ。
連山のくっきりとした稜線の一角から、狼煙のように炭焼きのけむりが立ちのぼる。霜枯れた落葉の庭先をサンダルで歩きながら、一服するうちに、まるで世界の終わりが来たかのような見事な朝焼けは、蜃気楼のようにたちまちかき消えてしまった。