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2月に米10年物国債利回りが1%から1.5%に急騰したこともあり、長期金利の動向は市場の関心事のナンバー1と言ってもいいでしょう。そこでよくあるのが、市場関係者に向けたアンケートで「年末の米10年物国債利回りの水準は何%か?」というものです。通常、市況に関するアンケートというのは、サンプル数が十分にあるという条件の下では、現在の相場水準を中心に、釣り鐘型の分布図になるものです。相場の水準というのは市場参加者の総意を反映したものですから、当然と言えば当然です。実際、為替やダウ平均の年末の水準を問うようなアンケートは今でも、現在の相場水準を中心に、釣り鐘型の分布図になるものばかりです。 しかし最近、「年末の米10年物国債利回りの水準は何%か?」という問いに限ってはそうならないという特異現象が起こっています。予想の平均が2.0%前後に集中しており、釣り鐘型ではなく、高利回り方向に歪んだ分布になるのです。現在米10年物国債の利回りは約1.6%です。2.0%を予想する人がいるのであれば通常、それと同じ数の、1.2%を予想する人がいなければ相場は1.6%での取引にはなりません。理論上、市場参加者の総意が反映された結果が市場価格になるはずだからです。しかし現在、米10年物国債利回りに限ってはそうならないのです。これは何を意味するのでしょうか?私はこれは、市場がインフレ、そしてそれに伴う量的緩和の縮小や長期金利の上昇を織り込み過ぎるほど織り込んでしまっている証左だと考えています。インフレを怖がり過ぎるリスク、です。 この半年ほどの長期金利の上昇には、大きく2つの局面が挙げられます。第一に昨年11月、ファイザーが新型コロナウイルスに有効なワクチンを開発し、経済再開への期待が高まった局面です。このワクチン開発によって経済再開への道筋が立ち、期待インフレ率が上昇するに伴って、それまで1%を割っていた米10年物国債利回りは1%台前半にまで押し上げられました。ただ期待インフレ率が高まったと言っても、コロナ以降のディスインフレが正常化する程度であったことを忘れてはなりません。 第二の局面は2月以降、当初成立は困難と見られていたバイデン大統領による1.9兆ドルの景気対策成立の可能性が高まっていった局面です。この局面では米10年物国債利回りは1%台前半から一時1.8%まで上昇しました。これは同時にメディアを中心に「インフレ懸念が本格化してきた」と騒がれていた局面でもあります。確かにワクチン開発後、期待インフレ率は少しずつ上昇してきていましたが、この局面における長期金利の上昇の主役は期待インフレ率の上昇ではなく、実質金利の上昇であった点に注意が必要です。要するに、この局面での長期金利上昇は1.9兆ドルの景気対策によって一時的に債券市場の需給が崩れたのが原因であって、本質はインフレ懸念ではなかったということです。これは今後の株式相場の展開を占う上で非常に重要なポイントです。 昨年、コロナがもたらしたリセッションを私は「ニセッション」(偽のリセッション)と呼んでいました。何故なら通常のリセッションで起こるようなバランスシート調整は無いし、政府によるサポート等もあって、通常のリセッションで経験する個人所得の減少も無く、だからこそ今回のリセッションにおいては過去例を見ないほどいち早く株式市場が回復し、経済も正常化してきたのです。残念ながら「ニセッション」は流行語大賞の候補にも選ばれませんでしたが、コロナ後のリセッションが「ニセッション」だという判断は、その後、通常のリセッションでは有り得ない急回復となった株式相場を占う上で非常に重要だったと思います。 同様に、現在市場に蔓延しているインフレ懸念を、私は「ニンフレ懸念」(偽のインフレ懸念)と呼んでいます。コロナがもたらしたディスインフレの反動で物価が上昇しているだけなのに、これを持続的なインフレと勘違いし、それが量的金融緩和縮小や長期金利の急上昇につながる等の懸念が行き過ぎることによって大事な市場の動きを見逃してしまうことを指しています。ニセッションがそうであったように、こちらも流行語大賞の候補には入らないかもしれませんが、現在市場が抱いている懸念がニンフレ懸念だと認識できるかどうかによって、今後投資のパフォーマンスには大きく差が出てくると考えています。 つまり、現在市場が最も懸念しているリスクであるインフレ、そしてそれに伴う量的金融緩和の縮小や長期金利の上昇が起こらなかった時、又は先送りになった時、長期金利の上昇を待って待機していた大量の資金は置き去りにされることになります。そしてそれらの資金は結局、年後半に向けて株式相場を押し上げる大きな原動力になっていくと見ています。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021.06.03 04:37:12
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