さっちゃんと９人家族

　  昨夜ようやく見たかった番組を観ました。何週間か前にハイビジョン放送で流していた「マニュエル・ルグリ　引退公演まで60日間」のドキュメンタリーと彼が主演のバレエ「ドン・キホーテ」（1995年？）

現在現役の男性ダンサーとしては私が一番大好きな人です。
有り余るパワーを見せるわけではないけれど、気品があって、細やかな心を表現することができ、なおかつ素早い足さばきと機敏さを兼ね備えているので、勢いのある若々しさや清々しさを作り出すことができる。本当に表現力のある、芸術的なダンスを踊ります。

その彼ももう44歳。男性ダンサーと言えども、もうとっくに大きなバレエ団からは引退している歳です。でも彼は21歳でパリオペラ座バレエ団のソリスト、エトワールに最年少でなって以来ずっとこのカンパニーでソリストを務め、また後輩たちを育ててきました。

とうとうその彼が引退を決意し、29年間所属したオペラ座を去ります。以降フリーのバレエダンサーとして踊り、またウィーン歌劇場バレエ団の芸術監督に来年から就任することが決まっているそうです。

引退公演の当日、「デフィレ」というバレエ学校の子どもからオペラ座の団員まですべてのダンサーたちが舞台に出てきてごあいさつをするという、特別の演目がプログラムに入れられました。

これはバレエ学校時代のルグリが初めてオペラ座の舞台を踏んだ時の演目であったということで、プログラムに加えられたのでしょう。

引退公演当日のデフィレのリハーサル後、ルグリはバレエ学校の子どもたちに取り囲まれ、一冊の本を手渡されました。
それはバレエ学校の子どもたちからの大先輩へのプレゼント、アルバムだったのです。

学校のあっちこっちから集められてきた少年マニュエルの姿、先生の写真、成績表、そして子どもたちからのメッセージなどが書いてあります。

彼はそのページを開きめくって思わず涙をぬぐっていました。
慌てて楽屋に滑り込んだ彼は、しばらく経って舞台化粧をしながらカメラに向かってお話を始めました。

「このアルバムにある成績、これだけを見た人はとてもこの子がその後バレエを続けていったとは思わないだろうね。ひどい成績だよ。

でも僕はバレエを踊るのが好きで好きで、成績なんか全く気にも留めていなかった。記憶にも残っていないよ！！」

世界屈指のダンスールノーブル（簡単に言えば貴公子）といわれる人がバレエ学校時代は少しも目立たない片隅にいる生徒だったとは！！

本当に分からないものです。

でもバレエ団はその目立たない彼を選んで入団させたのですから、それもすごいことですね。

ルグリのバレエ大好きの心と、その彼にチャンスを与えることができたパリオペラ座バレエ団に拍手！！