GARY BURTON REUNION
Reunionの包装をほどいたのは、JR大森駅のホームだったような気がする・・・というか、どういうわけか、このCDを手にとるたびに自分が大森駅のホームで、たぶん初夏、6月くらいだったのでしょう、少し汗ばみながら、キャラメル包装をぴっと破いているところが想起されるのです。プロデビューを飾ったPat Methenyが、最初に加わったのがGary Burtonのバンドで、本人にとっても特別な思いがあるようです。そのためかここでのPat Methenyは師匠に敬意を表して、いくらか襟元をただしている・・・ような気がします。トップギタリストとしての地位が、いま(2010年)のPat Methenyの、いささか偏狭ともいえる方向性と、ときおり見せる過剰でなにか老いにいらだつようなフレージングにくらべて、Reunionでの彼は初期Pat Metheny Groupのみずみずしさをたたえています。とくにソロの`入り’。語りはじめからよく歌っています。しかもタイトル曲ではとことんアドリブのニュアンスにこだわって、つんのめってしまったのか、コード進行を4小節間違えて先走りそうになってさえいます。でもそんなことはよくありました。ジャズだから、巨匠と言われる人たちでも、一拍多かったり、コード進行を間違えてもほかのメンバーがうまいこと合わせてくれたりするものです。別に気にしないし、むしろスタジオ録音でもアドリブはライブだ!という空気が伝わってきます。1983年頃だったか、横浜教育会館で、まださほど知名度の高くなかったころのPat Metheny Groupの公演では、Straight on Redで、のっけからメロディの音をはずしてしまい、あ、やばい、2フレット間違えた!、と気づいたことさえも隠さずに、顔を真っ赤にしてギターにしがみつくようにして弾いていたPat Methenyを思い出します。それにしても、ヴァイブラフォンという楽器が加わるだけで、アンサンブルがアイスティーのように涼しげで香りもミントが混じるようにひんやりします。5曲目の`House on the Hill'、1分51秒でギターとピアニカみたいな音の楽器が(ハーモニカなのかな?)ユニゾンを奏でるところ、2分54秒でヴァイブラフォンが金属的な輝きをたたえて語りだし、久しぶりにあった友人と昔のこと、いまの状況、考えていることを、表情豊かに話しているかのように繰り広げられるソロは、このアルバムのもっとも美しい瞬間でしょう。彼を支えるメンバーは、聞き役に回って、絶妙のタイミングで、絶妙の声音で、相づちを打ちます。Gary Burton の紡ぎだすメロディは、コードの森に風が吹き、光が射し込んで、日だまりになったり、暗がりをかすかに照らしだしたり、木漏れ日が地表の落ち葉に模様を描くよう、それだけでなくジャズという音楽が引き出す音の表情の豊かさを教えてくれます。このアルバムの聞き所は、もうひとつ、とりあげられた曲がすばらしいこと。メンバーのPat Metheny, Mithcel Formanに加え、Vince Mendozaが書いた2曲と、Polo Ortiが書いたと2曲の都会的なバラード、または夜想曲、ノクターンと呼ぶべき楽曲が際だっています。Will Leeがソリッドボディのベースの魅力、そして色気を存分に発揮して、これらの楽曲の全体をモダンな音にまとめています。Gary Burton:vb, Pat Metheny:g, Will Lee:el-b, Peter Erskine:ds, Mithcel Forman:p。