地の利、海の利、辺境の利
日本でテロが起きる日 佐藤優 2015年 時事通信社関連団体、内外情報調査会での懇談会講演録だそうだ。佐藤優はこの会は欠かさないそうだ。 中東の紛争の火種は、一世紀さかのぼり、英、仏、露が民族に頓着せずにオスマントルコ領の植民地化の線引きをしたことが大きいそうで、領土と民族が分断されて統治され、抑圧と不満が拡がっていったらしい。 シリアの火種は、仏が植民地政策として、それまで底辺に抑圧されていた少数派を支配層にすえ、多数派を支配したがゆえだそうで、それがアサドが属するシーア派のアラウィー派だそうだ。 現アサドは、親から引き継いで支配者となったそうで、その親も1970年代に反対派同胞を大量虐殺をしたそうだ。その息子も国民に毒ガスを使う人間となったわけだ。 イラクのマリキ政権はシーア派で、イランもシーア派、サウジはスンニ派だそうだ。 サウジでは、今でも女性の教育は小学生5年生程度に制限され、運転も禁止、妻帯は4人まで認められ、国会はなく、王の一族1500人が支配しているそうだ。 サウジにとって米軍はボディーカードで、更に、核兵器についてもパキスタンが保有できたのはサウジの支援によるもので、サウジはイランの核保有に備えていつでも核を手に入れられるようにするためにパキスタンを支援したというのがもっぱらの噂だそうだ。 シリア、イラクにまたがって繰り広げられている紛争は、もはや戦争であるそうだ。もし、クリントンが政権をとったら、躊躇せず地上軍を投入すると著者は言う。 また、この地域には800万人がおり、人道支援で200万人も域外に脱出させれば、この地域経済はなりたたなくなり、難民人道支援が敵対行為になるそうだ。だから、日本も敵とみなされるそうだ。 ウクライナの停戦は、アメリカ抜きで独、仏、露、ウの四か国で決まったそうだ。ウクライナが引いてロシアは引かない内容で、ロシアの勝ちと。ウクライナはつくづく利に恵まれぬ地で人の和も築けない地のようだ。 ティモシースナイダーの「ブラッドランド」によれば、スターリンが集団農場政策推進して土地と作物を取り上げ、農産物は海外輸出し、ウクライナ人4百万人を餓死させたらしい。佐藤優は当時の肉屋の写真に人肉を見たそうだ。 ヒトラーが登場するとウクライナ各地でドイツ人による大量銃殺がはじまり、大量銃殺で谷が埋め尽くされたりしたそうだ。肥沃な土地をウクライナ人から奪い、ドイツ人を養うためにドイツ人の入植をめざし、虐殺、移住させたとある。ドイツが降伏すると、スターリンは、ウクライナの民族活動家を弾圧し、ユダヤ人も排除したそうだ。 ウクライナは取り囲まれる国に蹂躙される地のようだ。共産圏の崩壊後は、トッドによれば、ドイツに隷属することになったそうだ。ドイツが終着となるロシアからのガスパイプラインがウクライナを走り、ドイツとロシアの重要経由地になっているそうだ。 クリミアは、ロシアに戻ったが、水と電気はウクライナからの供給なしにはなりたたないので、ロシアは決してウクライナへの支配を緩めないらしい。佐藤優によれば、ウクライナ東部、南部には、ロシアの航空機、ミサイル、宇宙産業、兵器工場があり、ロシアにとっては死活地域となっているそうだ。 ウクライナ西部は、もともと反ソビエト闘争の歴史があり、貧しい、辺境で、ウクライナ人の地域だそうだ。ソビエト共産圏となり、難民となるが、大国は受け入れないためブラジル、カナダに大勢亡命していったそうだ。カナダには120万人のウクライナ人が住み、ウクライナ語を話し、ウクライナを支援しているそうだ。 ウクライナの大統領は歴代、美人の誉れ高い元大統領も含め、不正蓄財で私腹を肥やす歓迎されない指導者であるそうだ。地の利も人の和も危うい地のようだ。 つくづく日本の地の利は、海と辺境にあると思う。更に、人の和を世界に語れるほどの国になれれば、この上ない地になれるかも知れない。