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カテゴリ:広井勇&八田與一
青山士「人と人との争いは人がこ之れを止むる事ができますが、天が人に降す災は人はこれを止める事はできません。ただ人はこれに対して、あらかじめ備えるほかありません。
人と人との間の争いは人文の発達しない時代は、力づくでその力の強い方の意思どおりになったのですが、今は裁判所もでき、それに仲裁されて判決されるのです。」 「皆様もこの天災すなわち洪水の防御について大きな関心を持っていただきたいのです。」 ・21世紀は洪水の防御にはある程度備えることもできるようになったが、 人と人との争い、すなわち戦争がやまず、仲裁もきかず、力づくで強いほうの意思通りにしようというのが変わらないのが悲しい。 「国は利をもって利となさず。義をもってて利となす」 二宮先生語録巻の5 【412】 利益は利益ではない。真の利は利でないところにある。真の益は益でないところにある。なぜならば、益を益とすれば損がこれについてくる。利を利とすれば害がこれについてくる。そこで義をもって利とするのが賢明な君主が人民をいつくしむところであり、利をもって利とするのが暗愚な君主が人民を虐待するところだ。人民をいつくしめば、戸数人口は増し、田畑は開け、租税額は増大し、国家は富む。国君の利はこれより大きいものがあろうか。人民を虐待すれば戸数人口は減り、田畑は荒れ、租税額は減少し、国家は衰える。国君の不利はこれより大きいものがあろうか。『大学』という書に子思が「国は利をもって利となさず。義をもってて利となす」と言っているのは、このことだ。 1 「孟献子(もうけんし)曰く、馬乗(ばじょう)を畜(か)うものは鶏豚(けいとん)を察せず。伐氷(ばつひょう)の家は牛羊(ぎゅうよう)を畜わず。百乗の家は聚斂(しゅうれん)の臣を畜わず。その聚斂の臣あらんよりは、寧(むし)ろ盗臣あれと。これを国、利をもって利と為さずして、義をもって利と為すと謂う。国家に長として財用を務むる者は、必ず小人自(よ)りす。小人をして国家を為さしめれば、災害並び至る。善者ありと雖もまたこれを如何ともするなし。これを国、利をもって利と為さずして、義をもって利と為すと謂う。」(大学) 洪水の災害と其の防御 青山士(「水土と利水」第七巻第十号1928(昭和3)年10月) 人と人との争は人之れを止むる事を得べきも、天の人に降す災は人之れを止むる事能はず唯人は之れに対して予め備ふるの外ありません。人と人との間の争いは人文の発達せざる時代は力づくで其の力の強い方の意思通りに成つたので ありますが今は裁判所も出来夫れに仲裁せられ判決せらるるのであります。 災害の防禦と言ふことは天然と人との戦であります。而し天の人に降す災即ち天災を起す元は非常に強大で而も人間でないが故に談判をして、即ち話し合ひで之れを未然に止むる事は出来ません。即ち彼の関東の大震災も例令へ地震学の博士に依つて何年何月何日に起ると言ふ事が分つて居つても之れを止むる事は出来ません。 只人智が進んで来て其の災害の来らむとする時期及び其の輪廓を知ることは出来るかも知れません。例へば日本に於ける台風等は其の卵が南洋諸島付近に発生してから日本本土へは五、六日で来る其の発達の程度はニ、三日前でなければ分らない其の深度に依つて其の威力の大体の輪廓も大体の輪郭も知る事が出来るかも知れません。例へば日本に於ける台風等は其の卵が南洋諸島附近に発生してから日本本土へは五、六日で来る其の発達の程度は二、三日前でなければ分らない其の深度に依つて其の威力の大体の輪郭も知る事が出来る而し其の台風を途中で喰止むる事は天気博士でも出来ない事である。彼の明治四十三年八月の日本国の殆んど全部を襲った大洪水又大正六年十月一日の東京湾を襲った暴風に依る津浪も又最近去る九、十、十一の降雨に依り生じた北陸地方の手取川水源加賀白山に於ける雪解、山抜けに依る大水害及び庄川、黒部川等の洪水にて僅か一日の間に百数十名の人名及び四、五千万円の財産を失ひ其の他勘定する事が出来ない無形の損害を蒙つた大水害等も皆仮令へ其の禍の来ると言ふ時日が分つて居つても之れを止むると言ふ事に就ては人間の力は今の所どうする事も出来ないのであります。それならばそれを拱手して待つべきかと言ふにそうは行かないのであります。人は其の力の及ぶ範囲内に於てそれに備ふる事を得るのであります。大雨の時の雨漏は相当なる大漏でもバケツ又は盥等で受けることが出来るも洪水はそうは行かないから近代に於ける洪水防禦の方法としては先づ河の両岸に大なる堤防を作り又は河の曲りを真直ぐにして一定の水路を作り又は河底を浚渫して水の流れを良くして地上に降った水を平地に溢るゝ事なしに海なり大きな湖水なりに早く流してやることであります。而し近代は土木工学の進歩に依つて其の河に良き地点があれば其処へ堰堤を設けて其の洪水を溜めそれを徐々に流す方法も考へられ又其の水を利用して水力発電又は灌漑に利用する事もあります。即ち東京の近くでは彼の大利根川の洪水に依り徳川幕府時代は江戸の下町は時々浸水の厄に遇ひ維新以後にあつても彼の権現堂堤其の他の個所の缺壊に依り東京の下町は水害に襲はれ明治四十三年の如きは其の洪水が荒川の夫れと合して上野の山下辺迄濁水が押寄せて来た事は其の後利根川、荒川の改修工事が竣功した今日殆んど忘れられた様な有様でありますが斯の如く利根川の改修工事に依つて関東平野の水災の大部分は除かれ又荒川下流の改修工事にて足立、江戸川、王子、豊島、浅草、下谷、本所、深川区等を荒川の水災より免れしめ、木曾川の改修工事は之れに関連して木曾、長良、揖斐三川を改修し濃尾平野の大水災害を除き、淀川の改修工事は之れに関連して摂津平野、大阪の大水害を除去し夫等地方に於ける人命及び国土、財産を安全にしたのみでなく其の地方の産業の発達を促した事は非常なものであることは言ふ迄もありません。以上の利根川、荒川下流、木曾川、長良川、揖斐川及び淀川の改修工事は国即ち内務省が大部分直営で施行したものでありまして夫れにどれだけの費用を投じたかと申しますれば総計約一億四千万円でありますが、それに依つて年々平均千五百万円の物質的の被害より国を救つて居るのでありますれば其の防禦工事が全く十露盤に掛らないものでないのみならず良き投資であると存じます。それのみならず衛生上の改善、交通の利便その他精神上の脅威を除く事に於て大なる利益のある事は言ふまでもありません。それでありますから皆様も此の天災即ち洪水の防禦に就て大なる関心を持つて戴きたいのであります。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2022年06月11日 21時50分07秒
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