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ジョンリーフッカー

ジョンリーフッカー

2016.02.12
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猫がブームだそうである。実際イオンにあるペットショップに行ったら、いつの間にか、犬に代わって、猫が半分のスペースをしめていた。ま、そんなワケで猫文学「吾輩は猫である」の話をしよう。
読み進めていると、我欲についての考察について記述している文章があった。唸る。漱石の文学は哲学を感じる時がある。



「ぴん助やきしゃごが何を云ったって知らん顔をしておればいいじゃないか。どうせ下らんのだから。中学の生徒なんか構う価値があるものか。なに妨害になる。だって談判しても、喧嘩をしてもその妨害はとれんのじゃないか。僕はそう云う点になると西洋人より昔むかしの日本人の方がよほどえらいと思う。西洋人のやり方は積極的積極的と云って近頃大分だいぶ流行はやるが、あれは大だいなる欠点を持っているよ。第一積極的と云ったって際限がない話しだ。いつまで積極的にやり通したって、満足と云う域とか完全と云う境さかいにいけるものじゃない。向むこうに檜ひのきがあるだろう。あれが目障めざわりになるから取り払う。とその向うの下宿屋がまた邪魔になる。下宿屋を退去させると、その次の家が癪しゃくに触る。どこまで行っても際限のない話しさ。西洋人の遣やり口くちはみんなこれさ。ナポレオンでも、アレキサンダーでも勝って満足したものは一人もないんだよ。人が気に喰わん、喧嘩をする、先方が閉口しない、法庭ほうていへ訴える、法庭で勝つ、それで落着と思うのは間違さ。心の落着は死ぬまで焦あせったって片付く事があるものか。寡人政治かじんせいじがいかんから、代議政体だいぎせいたいにする。代議政体がいかんから、また何かにしたくなる。川が生意気だって橋をかける、山が気に喰わんと云って隧道トンネルを堀る。交通が面倒だと云って鉄道を布しく。それで永久満足が出来るものじゃない。さればと云って人間だものどこまで積極的に我意を通す事が出来るものか。西洋の文明は積極的、進取的かも知れないがつまり不満足で一生をくらす人の作った文明さ。日本の文明は自分以外の状態を変化させて満足を求めるのじゃない。西洋と大おおいに違うところは、根本的に周囲の境遇は動かすべからざるものと云う一大仮定の下もとに発達しているのだ。親子の関係が面白くないと云って欧洲人のようにこの関係を改良して落ちつきをとろうとするのではない。親子の関係は在来のままでとうてい動かす事が出来んものとして、その関係の下もとに安心を求むる手段を講ずるにある。夫婦君臣の間柄もその通り、武士町人の区別もその通り、自然その物を観みるのもその通り。――山があって隣国へ行かれなければ、山を崩すと云う考を起す代りに隣国へ行かんでも困らないと云う工夫をする。山を越さなくとも満足だと云う心持ちを養成するのだ。それだから君見給え。禅家ぜんけでも儒家じゅかでもきっと根本的にこの問題をつらまえる。いくら自分がえらくても世の中はとうてい意のごとくなるものではない、落日らくじつを回めぐらす事も、加茂川を逆さかに流す事も出来ない。ただ出来るものは自分の心だけだからね。心さえ自由にする修業をしたら、落雲館の生徒がいくら騒いでも平気なものではないか、今戸焼の狸でも構わんでおられそうなものだ。ぴん助なんか愚ぐな事を云ったらこの馬鹿野郎とすましておれば仔細しさいなかろう。何でも昔しの坊主は人に斬きり付けられた時電光影裏でんこうえいりに春風しゅんぷうを斬るとか、何とか洒落しゃれた事を云ったと云う話だぜ。心の修業がつんで消極の極に達するとこんな霊活な作用が出来るのじゃないかしらん。僕なんか、そんなむずかしい事は分らないが、とにかく西洋人風の積極主義ばかりがいいと思うのは少々誤まっているようだ。現に君がいくら積極主義に働いたって、生徒が君をひやかしにくるのをどうする事も出来ないじゃないか。君の権力であの学校を閉鎖するか、または先方が警察に訴えるだけのわるい事をやれば格別だが、さもない以上は、どんなに積極的に出たったて勝てっこないよ。もし積極的に出るとすれば金の問題になる。多勢たぜいに無勢ぶぜいの問題になる。換言すると君が金持に頭を下げなければならんと云う事になる。衆を恃たのむ小供に恐れ入らなければならんと云う事になる。君のような貧乏人でしかもたった一人で積極的に喧嘩をしようと云うのがそもそも君の不平の種さ。どうだい分ったかい」
 主人は分ったとも、分らないとも言わずに聞いていた。珍客が帰ったあとで書斎へ這入はいって書物も読まずに何か考えていた。





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最終更新日  2016.02.12 17:41:48
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