2016年のマイベスト本を紹介。第5位。
黙殺/忘却された堀田善衛の小説、「時間」の末尾の言葉があえて冒頭に置かれて、「1★9★3★7(イクミナ)」のゴールの見えない旅は、始まる。
日中戦争に突入した1937年。南京大虐殺が行われた年。本書は、小説「時間」を話の縦糸にして、書き手・辺見庸の私記を横糸にして綴られる。綴られる、とは正確ではない。血を吐くようにして、示される。記憶の墓が暴かれる。
しばらく読むと、つま先が熱を帯び、関節は固まり、頭が冷たくなった。「積屍」というコトバを知る。数字という記号に誤魔化され、忘却されたひとりびとりのことを想った。戦争責任への「そらっとぼけ」を暗黙のうちに受容してきたヌエのような戦後社会を想った。吐き気がした。ふいに嗚咽が込み上げてきもした。それでも読んだ。読まずには済まされなかった。そして、知らずには済まされないことが、知らずに済まされてきた70年を思った。
「救いがあるかないか、それは知らぬ。が、収穫のそれのように、人生は何度でも発見される」ーー
【新品】【本】1★9★3★7(イクミナ) 辺見庸/著