タイトルにセンスを感じる。なぜ自殺したのか、ではなく、なぜしなかったのかという観点からカフカの人生を見つめた一冊。最新の研究に加え、カフカの日記と手紙をもとに辿る。
カフカ作品については言うまでもなく、日記や手紙の面白さに驚いた。カフカが書いた文は、すべからく作品と呼んでもいいほどに。
「死にたいという願望がある。そういうとき、この人生は耐えがたく、別の人生は手が届かないようにみえる。」
絶望することが日課のようなカフカは、生まれる時代が早すぎたのかも知れない。題の問いに対し要訳して答えることはできない。ただ、本を読み終えて、その秘密が、秘密のままに、なんとなく理解できる。
働くことが死ぬほど嫌いだったカフカ。意中の女性に一日に3通も手紙を送り、既読スルーされると情緒不安定になったカフカ。決断できない弱さと、決断しない強さを持ち続けた孤独な作家は、現代人には、人としてなじみのある姿に移る。
「いつもいつも、死にたいと思いながらもまだ生きている。それだけが愛なのだ。」
カフカの言葉は今も(今だからこそ)、遠くの夜景の小さな窓の灯りのように、私たちの心に残って輝き続けている。
【新品】【本】カフカはなぜ自殺しなかったのか? 弱いからこそわかること 頭木弘樹/著