シンクロ ― 琴子の居場所
琴子は死んでしまったけど、何処かにきっと琴子はいると、少しずつ日常を取り戻していく中で、私の琴子探しも日常化していった。あるとき、何気なくテレビから流れてきた歌の歌詞に私は耳も心も奪われた。特別にファンでもなかったんだけど、ポルノグラフティの『愛が呼ぶほうへ』。「あぁ、琴子だ、琴子からだ」と即座に感じた。あの頃はよく本屋にも通った。元々、私は本が好きだったから、本屋に通うことはそんなに珍しいことではなかったのだけど、手にする本に救いを求めていたので、本屋には琴子を探しに行っていたようなものだった。ポルノグラフティの曲を聴いた後に本屋でたまたま手にした本、タイトルもすっかり忘れてしまったのだけど、確か天使の世界の話しで、天使の階級とかが図になっていた。その本を手にしてパッと開いたページ、いきなり目に入ってきたのが『歌は天使からのメッセージ』。「うわ、もうこれは絶対に琴子からだ!」しばらく胸の鼓動が早くなっていたのを記憶している。こんなにまではっきりと琴子の意思を感じられるなんて…私と琴子はやっぱり繋がっているんだ!その足で、ポルノグラフティの『愛が呼ぶほうへ』のCDを購入した。私が耳にしていたのはサビの部分くらいだったのだけど、購入したCDを早速聴いてみたら、ほらね、やっぱりこれは琴子からのメッセージなんだと強く感じられることが出来た。そして、それからしばらくはこのCDばかりを聴いていた。琴子からのメッセージを受けられるなんて、なんて幸せなことなんだっておもえて嬉しいんだけど、嬉しいのは一瞬で、この頃はすぐに寂しくもなった。だって、生きていたら、琴子を探さなくても目の前にいるのが当たり前なのに。最近、このCDを久々に聴いてみたんだけど、辛くて悲しくて、そして温かかった。それまではクリスマスって特別な日なんかじゃなかったんだけど、死んでしまった娘にプレゼントを買ってあげる機会ってなかなかなくて、クリスマスプレゼントを買ってあげることにした。何故だか琴子はブタが好きなような気がして、ブタのぬいぐるみにした。プレゼント用の包装をしてもらい、12月25日の朝に開けてあげた。「ほら、ブタのぬいぐるみだよ!」って、琴子の仏前で箱を開けてあげたんだけど、琴子の遺影が笑い顔に変わるわけでもないし、結局いつものように、旦那と私が泣きながらお線香をあげるだけだった。それでも一応、親らしくしてあげられたっておもえて、思い出が一つ増えたことを喜んだ。ブタのキーホルダーをみつけたときも、迷わず購入し、肌身離さず持ち歩いている。偶然なんだろうけど、最近になってリンズにブタのぬいぐるみを見せたら、とても嬉しそうな顔をした。それは多分、ブタのぬいぐるみの向こうに琴子が見えたのだろうって、そう感じられたから嬉しかった。琴子が生きていれば2歳。2歳の姉なら、妹を十分に可愛がってくれている頃だっただろう。どこかで琴子を感じるたびに、自分がまだ琴子と繋がっていることに嬉しくて、琴子も私を忘れていないんだって嬉しくて、嬉しくて嬉しくてたまらなくなる。ただ、琴子の姿だけが見えない。どんなにシンクロしても、琴子の姿は見ることが出来ない。贅沢を言ってはいけないよね、琴子とシンクロ出来るだけでも感謝しなくちゃだよね。明日、また久しぶりに琴子からの曲を聴いてみよう。