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じゃくの音楽日記帳

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2010.11.26
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ヤンソンス&コンセルトヘボウのマーラー3番、続いてはポストホルン篇です。

ポストホルンパートの吹かせ方に、今回ヤンソンスは斬新なアイデアを盛り込んでいました。ポストホルンの登場場面は大きく前半、後半のふたつにわけられますね。川崎、サントリーの両公演ともに、前半は向かって右方から、後半は向かって左方からと、違った場所(方向)からポストホルンを響かせていたんです。なかなか興味深い試みです。もしかしたら、郵便馬車がポストホルンを吹きながら遠くを右から左にゆっくりと通過していく、というふうなノスタルジックなイメージからの発想なのかもしれません。これに相当するような、日本人が郷愁を呼び起こされるサウンドスケープを挙げるとしたら、チャルメラのラッパの音が遠くの方でゆっくりと移動していくという情景でしょうか。もっともこれだと冬の寒い夜になってしまいますが(爆)。

さて、まず川崎公演でヤンソンスが実際にどうやったかと言うと、前半は舞台上手の、舞台裏に通じるドアを開けて、そのすぐ裏で吹かせ、後半は舞台下手のドアを開けて、そのすぐ裏で吹かせていました。しかしこれは、どうにも距離が近すぎました。舞台のすぐ裏から吹いているのがもろに聞こえてきてしまい、マーラーの指定の「遠くから」という距離感が、まるでありません。これではあたかも、右隣の家で吹いていたポストホルンが、次に左隣の家に移ってそこで吹いているのを聴いている、という感じです。(僕は比較的舞台に近い席で聴いたので、「近さ」を強く感じやすかったということはありますが、それにしても近かった。)

この点(近すぎたということ)を除けば、他は素晴らしかったです。音色はこれぞポストホルンという美しいものだったし、音程も、歌い回しも、申し分ありません。

ただただ、惜しむらくは、この距離感の欠如でした。近すぎると、どんなに名人が吹いても、音のアタック時に微妙な雑音成分が、ときにかすかに聞こえて来ることが避けられません。そのために、何と言ったらいいでしょうか、自分の居場所と、奏者の居場所が、同じ空気で直接つながっている空間だということがあらわになり、すなわち「現実世界からの音」になってしまいます。ある程度の距離感は、そういう現実のつながりをなくすために必要なのだと、僕は思います。マーラーにおける「遠くからの音」は、ポストホルンに限らず、6,7番のカウベルにせよ、復活でのバンダにせよ、そのための最低限の距離感が必要だと思うんです。ただドアの裏でやればいいというものでは決してない。

そういう意味で、川崎公演のポストホルンは、技術、音色は実に素晴らしかったですが、至近距離すぎるために、現実世界の音として響いてしまい、郷愁のような感興が喚起されてこず、僕としては非常に残念でした。。。(念のため書いておきますと、距離感については、聴く座席の位置によって相当印象が異なってくることはもちろん承知しています。比較的舞台に近い席で聴いた一聴衆の感想ということで、ご理解ください。)

翌日のサントリー公演。僕の座席は川崎よりも舞台にさらに少し近い席でしたが、川崎よりも明らかに、遠くからの音として聞こえてきました。そしてホールの空間にたっぷりと響いていました。そのため、前半は右から、後半は左から、という違いが川崎ほど明確には区別しがたく、前半はちょっと右寄りかな、後半はちょっと左寄りかな、という聞こえ方でした。これはなかなかいい感じです。

サントリー公演のポストホルンは、これまで僕が聴いたなかでは、近距離の部類にはいるものでした。けれど、川崎公演よりは遠くから聞こえてきて、「現実世界とのつながりのない音」として響いていました。僕にとってはこれはすごく大事な点です。ポストホルンはこうでないと。これでこそ、今回の奏者の技術の高さ、音色の美しさが、充分に生きてきます。ポストホルン独特の魅力にあふれた美しい音が、遠くからやってきて、ホールに豊かに柔らかく響き渡り、素晴らしかったです。(今年3月のインバル&都響のときに惑わされてしまった僕(注1)が言う資格はありませんが、ポストホルンにしか出せない音色の美しさに、久しぶりにどっぷりと浸らせていただきました。)

距離感という点でいえば、今年9月の尾高&札響での福田さんの演奏(「尾高/札響のマーラー3番(2日目)を聴く」の記事をごらんください)が、充分に遠距離からの響きで、最高(最遠)でした。それに対して今回のポストホルンは、音色の豊麗さが圧倒的でした。響きのゴージャスな美しさという点では、最高のポストホルンでした。これほどゴージャスでなくても良いから、こういう感じの音色で、もうちょっと遠くからの響きだったら、それが僕の理想のポストホルンかもしれないです。

ところで一つわからなかったことがあります。僕の席からは、サントリー公演でどこのドアを開けて吹いたのか、確認できませんでした。2階客席部分のドアは、わかる範囲では開いていませんでした。舞台上の、舞台裏へのドアのうち手前(客席に近い方)側のドアも、開いていませんでした。サントリーには、舞台裏に通じるドアが舞台の奥の方の左右にもあるので、もしかしたらそこのドアを開けたのかもしれません。どなたかご存じの方がいらしたら、教えていただけると大変ありがたいです。


そして、奏者のことを書かなくては。

この美しいポストホルンを吹いた奏者は、僕は当然、先日のNHKの衛星放送で放送されたアムステルダムにおけるヤンソンス&コンセルトヘボウの3番演奏時に映っていた、めがねをかけた奏者だと思っていました。ところが川崎で演奏終了後、カーテンコールで呼び出されたポストホルン氏を見て驚きました。それと違う、あの人でした!

今回、演奏終了後にバルブ付きのポストホルンを持って登場したのは、DVDで良く見覚えがある人でした。2007年のアバド&ルツェルン祝祭管との3番のDVDで、ポストホルンを持って登場している方です!この方は、1998年のアバド&ベルリンフィルの来日公演の3番でもポストホルンを吹いていました。(この公演はその後テレビ放送され、それを録画して見ていたので、良~く見覚えがありました。)

この方、バイエルン放送交響楽団の首席トランペット奏者ハーネス・ロイビン氏だそうです。アバドの信頼あつく、そして今回もヤンソンスが、3番のためにわざわざ満を持して連れてきたのですね。まさに最強のポストホルン請負人!

アバド&ルツェルン祝祭管の3番のDVDには、最後に画面に各パートの首席奏者の名前がずら~っと出てくるのに、驚くべき事に、ポストホルンのハーネス・ロイビン氏のお名前は出てきません。DVDのブックレットにもお名前が載ってません。また今回のコンセルトヘボウのツアープログラムにも、ロイビン氏のお名前がまったく載っていません。これほど大活躍するポストホルン氏なら、お名前を出してしかるべきなのに、なんで出さないのでしょうか、謎です。。。ロイビンさんが遠慮深くて、名前を載せるのを固辞しているのでしょうか?

そこで、この素晴らしきポストホルン奏者に敬意を表して、バイエルン放送交響楽団のサイトのメンバー紹介のページにリンクを張っておきました。ここにロイビンさんが写真入りで紹介されています

これでポストホルン篇を終わります。次はヤンソンスですね。ちょっと疲れてきましたが(^^;)、頑張って書きます。

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注1:インバル&都響のときに、ポストホルンパートの使用楽器についてまんまと惑わされてしまった僕のくやしくも悲しい体験については、「ところでポストホルン?(インバル/都響のマーラー3番追記)」の記事をごらんください。





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Last updated  2010.11.27 00:12:41
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