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じゃくの音楽日記帳

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2010.12.15
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カテゴリ:演奏会(2010年)
もう今年もあと2週間あまり。今年行ったコンサートで感想を書いておきたいものを、少しでも書いておこうと思います。古いものも出てくるかもしれませんが、ご容赦を。

11月27日、ユベール・スダーン指揮、東京交響楽団によるブルックナーの8番を聴きました。東京交響楽団第583回定期演奏会、サントリーホール。

ノヴァーク版第2稿(すなわち従来からの通常のノヴァーク版)による演奏でした。

スダーンのブルックナーは、今年7月に同じく東響を振った9番を聴いたのが初めてで、今回は2回目です。9番のときは、引き続いてテ・デウムを演奏するという趣向でした。(第三楽章の終了後に、休憩なしで声楽陣が入場してきてテ・デウムが演奏されました。)演奏には非常に気合いが入っていて、その意気込みの強さと真剣さには敬意を抱きましたが、如何せんテンポの変化が激しくて、煩わしくて落ち着かず、僕としては不満な9番でした。

今回の8番も同じようなスタイルになるだろうかと想像して、あまり期待しないで来場しました。ところが9番とはまったくスタイルが違って、早めのテンポを基本としつつ、テンポを大きく動かすことがなく、実にきっちりと引き締まった8番で、東響の音も充実していて、満足できるブルックナーが聴けました。

スダーンさんは、第一楽章出だしから、本当に集中して気合いが入っていました。僕はP席でスダーンさんの向かい合わせで聴いていたので、スダーンさんの息遣いというかつぶやきというか、ささやきが良く聴こえてきました。「ささやき」と書きましたが、ふつうのささやきとは違って、口を大きく動かし、「しょわーっ!、はわしゅわーっ!」というような、ちょっと異様なもので、結構な大音量で、ほぼひっきりなしに口ずさまれていて、結構驚きました。しかし、そんなことは問題に感じないほど、音楽には緊張感があり、充実していました。第二楽章になると、さらに音楽が引き締まって来て、隙のない音楽が続いていき、このあたりから「この演奏は凄いぞ」と思い始めました。ティンパニを控えめに打たせていたのも、音楽の内的緊張感を高めていて、いいな、と思いました。

そして第三楽章からが、さらに凄かった。相当早めのテンポで開始され、そのままゆるむところがなくぐいぐいと進みます。かといってインテンポで突き進むわけではなく、ツボを押さえた微妙なアゴーギグがあるので、せせこましい感じが全くしません。これは素晴らしい。シューリヒトを思い出す、古武士のような、潔くも美しいアダージョで、すっかり音楽に引き込まれました。

終楽章も同じような早めのテンポです。金管群の充実は素晴らしく、オケの音は本当に良く鳴っていて、力強いですけれど、決して力任せでないんです。程よく抑制が効いていて、力と品格を兼ね備えています。そして最後の最後に、ホルンが第二楽章の主題で入ってくるところで、ホルン隊が突如のベルアップ!このベルアップの効果は、圧倒的でした。音楽のタイミング的に最高のときでしたし、視覚的にも、ベルがしっかり上がって揃っていて、毅然としていてかっこよかったです。そして何より音響的に、もともと堂々として素晴らしかったホルン隊の音が、より一段とパワーアップして、決然と、雄渾に、格調高く響きました。この音には、しびれました!(今回の僕の席はPブロックで、上がったベルが比較的こちらの方に向いていたという場所の効果も良く作用したのは間違いありませんが、それにしても今回のベルアップはぴしゃりと決まっていて、全曲引き締まって進んできた演奏の最後を締め括るのにふさわしい、絶大な効果をあげていました。

最後の音の余韻が消えてからも、スダーンさんがタクトを降ろすまでの何秒かの間、ホールは静寂と緊張に包まれていました。古武士の潔い演奏に、聴衆も正しく礼を尽くした、貴重なひとときでありました。

ところでプログラムにはスダーンさんと音楽評論家舩木篤也氏の対談が載っているんですが、それによるとスダーンさんはノヴァーク版第1稿は一度も検討していない、というか、見たことがないようで、舩木さんの持参したノヴァーク版第1稿の楽譜を初めてみるような会話が載っていて、「第2稿の方がずっといい。ずっとリアルだ」というスダーンさんの言葉があったりして、なかなか興味深いです。

僕は、シモーネ・ヤングさんの第1稿のCDがとても気に入っていて、第1稿による演奏がもっともっと増えて欲しいと思っています。しかしそれはそれとして、今回の8番の演奏スタイルは、早めのテンポでスケールは大きくないけれど、きっちりと引き締まった硬派のブルックナーという感じでした。この演奏スタイルであればノヴァーク版第2稿が、音が切りつめられているという点で、一番最適な版だなぁと思いました。

今回の素晴らしい8番を聴いて、スダーンさんのブルックナー演奏に対する認識を新たにした次第ですし、近頃の東響の充実ぶりも、改めて実感しました。ありがとうございました。






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Last updated  2010.12.16 00:39:39
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