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じゃくの音楽日記帳

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2011.10.21
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カテゴリ:演奏会(2011年)

スクロヴァチェフスキのブルックナーを堪能しました。若々しく、力強い、充実のブルックナー!! 

10月19日 東京オペラシティ タケミツメモリアル
指揮 スクロヴァチェフスキ
管弦楽 ザールブリュッケン・カイザースラウテルン・ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団

モーツァルト 交響曲第41番
ブルックナー 交響曲第4番

この長い名前のオケのことを、僕はなんとなくザールブリュッケン放響が改名したのだろうと思っていました。前回スクロヴァ率いるザールブリュッケン放響が来日してここオペラシティでブルックナーを演奏したのは2003年。3日連続で5番、7番、8番でした。素晴らしい演奏でしたけれど、オケの技量的には思ったほどでもなかったという記憶があります。今回会場に来てプログラムを見ると、ふたつのオケ(ザールブリュッケン放響とカイザースラウテルンSWR放送管弦楽団)が2007年に合併したオケということです。音がどう変化しているのでしょうか。

会場に入って舞台を見ると、マイクが数本立っています。その立て方が変わっていて、指揮台の周囲に5本の黒いスタンドが立ち、てっぺんにマイクがあり、それぞれオケの方(斜め下方)を向いています。このマイクスタンドがすごく高く(あとで指揮台に立った長身のスクロヴァ氏の、さらに頭ふたつほど高い)、それが5本でずらりと指揮台を取り囲んでいるさまは、なかなかに物々しくて、電磁バリアでも張り巡らせそうな雰囲気(^^)で、オケの入場前から緊張感が漂っています。

オケの入場に続いてスクロヴァが入場し、早くも会場からは熱烈な拍手が沸き起こります。

始まったモーツァルト。スクロヴァの指揮ぶりは非常に厳しく、引き締まっています。それにこたえるオケの気合いも素晴らしい。びしっと引き締まった、無駄をそぎ落とした音楽です。変なたとえですが、良く呼吸のあった殺陣を目の当たりにしているような、緊張感の高い演奏です。モーツァルトが終わると盛大なブラボーが飛び交いました。

休憩後、いよいよブルックナー。やはり引き締まった音楽で、いささかも隙がありません。やや早めのテンポを基調に、ときどきかける激しいアッチェレランド、何気ない経過句での陰影に富んだ深い呼吸、すべてに一切の迷いがなく、確信に満ちたブルックナーです。その音楽の若々しくエネルギーにあふれていること、驚くばかりです。88歳のスクロヴァ、さらなる境地に踏み込んでいます。

オケもすばらしい。いかにもドイツのオケらしい素朴で質実剛健な響き。そしてスクロヴァの激しい要求に全力でひたむきに応えるその気合いは、すばらしいの一語。数年前に聴いたザールブリュッケン放響とはまったく次元の違う音です。合併で技術はもちろん上がったでしょうが、何よりも気合いの入り方が半端でありません。コンマスは白髪の老紳士で、トップサイドは黒髪の女性奏者で、このふたりともコンマスのような熱奏ぶりで、二人のコンマスがいるようでした。(翌日の演奏会と併せて考えると、老紳士がおそらくザールブリュッケン放響時代のコンマス、女性がカイザースラウテルンSWR放送管時代のコンミスであろうと想像します。)この二人の切り込み隊長を筆頭として、オケ全体がすこぶる気合の入った充実した音を出してくれます。

近年、読響やザールブリュッケン放響とのスクロヴァのブルックナーの演奏を聴いて、その素晴らしさに感動しながらも、僕がときどき不満に感じていたことがあります。ひとつは、スコアにないダイナミクスの変化です。クレッシェンドしていき頂点のffに達する少し前に、一度音量を落として、それから頂点のffに突入するというやり方が時々見られ、それがすごく恣意的に聞こえ、大きな流れの勢いを削いでしまうように感じていました。もうひとつは、各パートの明晰性や音量バランスに神経を使うあまりに、音楽が縮こまってしまい、スケール感が損なわれるような瞬間を、ときどき感じていました。これらのために、ブルックナーの音楽にとても大事な、大きな流れと言うか、巨大なスケール感と言うか、そういったものが損なわれるような印象を持つことが時々ありました。(なぜか7番や9番ではそういう場面は少なく、4、5、8番などで感じることが多かったです。)

しかし今日は、どちらも皆無。変に音量を落とすところがまったくなく、音楽がうねって巨大に成長していくその流れ、強さががっちりと感じられます。また、各パートに細かな気配りが充分に行き届いていながら(特に木管の声部を強調して新鮮な響きが随所にありました)、それに神経を使いすぎて音楽が小さくなるという傾向がまったく感じられません。繊細にして剛気、パワフル。

終楽章のシンバル追加を代表とする、スコアの改変「スクロヴァ稿」(^^)も相変わらずの健在ぶりです。まぁ良くやってくれます。

たとえばこのシンバル追加の一点をもって、スクロヴァの4番を受け入れられないブルックナーファンも少なくないかもしれません。僕もこのシンバル、あるのと無いのとどちらが好きかと問われれば、無いほうが好きです。

演奏のスタイル的にも、僕としてはこういった筋骨質系のブルックナーよりも、悠揚としてせまらず系のブルックナーの方が好きです。

しかし今回のスクロヴァのブルックナーは、そういう好みを超えていて、そういう個々の点は末節のことだ、と思えるような、がっしりと1本芯の通った、説得力のすごさがあります。スコアの改変を含めて、きわめて個性的なブルックナーですが、ここまで来るともはや普遍性を持つ、そういう境地に達しています。

オケの頑張りと一体となって、本当にすごいブルックナーの音楽が、眼の前で鳴っています。終楽章は、終わらないで欲しい、と思いながらただただ聴いていました。

それでも不注意な聴衆はいるもので、時報のチチッという音が少ししたり、終楽章のコーダで寝息が(!)したり、等のできごとはありましたが、それも小さいことです。そして曲終了後の余韻は、大丈夫でした。スクロヴァが指揮棒をあげている間は拍手が起こらず、ほどなく指揮棒を降ろしきるその少し前まで、静寂が保たれました。

そのあとの拍手・歓声は、CDが出るとしたらカットしないで入れてほしいものです。スクロヴァが最初に一人で立たせた奏者は、もちろん1番ホルン。アジア系の方で、この奏者はおそらく数年前のザールブリュッケン放響のブルックナーのときにも吹いた奏者だと思います。いいホルンでした。

そのあとは、金管隊、テインパニ、木管隊、そして弦ではまずヴィオラ、続いてチェロ、そしてコンマスをひとしきり称えたあと、第一ヴァイオリン、あとは全員。聴衆の中には途中からスタンディングオベーションする人もちらほら出てきました。やがてオケがひっこんでも、拍手が鳴りやまず、聴衆は総立ちとなりスクロヴァ呼び戻し拍手が続き、スクロヴァがなんと1番ホルン奏者を連れて再登場し、ひと際大きな歓声と拍手が起こりました。そのあと、まだ鳴りやまぬ拍手に、一度引っ込んだスクロヴァは今度は白髪のコンマスを連れて再々登場し、ふたりでがっちりと、熱い拍手を浴びていました。ありがとうスクロヴァチェフスキ。ありがとうオケの皆さま。

若々しいブルックナー。かつて最晩年の朝比奈も、実に若々しいブルックナーを聴かせてくれました。この両者、スコアをいじるスクロヴァ、スコアに書いてないことはしない朝比奈、芸風もかなり違うものの、どちらも素晴らしい、かけがえのないブルックナーです。

・・・スクロヴァのブルックナー、翌日(20日)にも、ここオペラシティタケミツメモリアルで9番を聴かせてくれました。これも本当にすばらしいブルックナーでした。そして今この記事を書いているきょう21日は、19時から大阪シンフォニーホールで4番でした。今宵もさぞや充実したブルックナーが響いたことでしょう。

 






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Last updated  2011.10.22 01:59:55
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