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じゃくの音楽日記帳

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2013.08.04
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8月3日、アルミンク&新日フィルのマーラー3番、二日目を聴きました。
初日をはるかに凌駕する超名演でした。

二日目を聴いて感動にひたっている今、初日のことをあれこれ書くのはもうやめようかとも思いましたが、やはり順をおって書いておこうと思います。初日その2です。
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8月2日、すみだトリフォニーホール
新日本フィルハーモニー交響楽団 第513回定期演奏会

指揮:  クリスティアン・アルミンク
アルト: 藤村実穂子
女声合唱:栗友会合唱団
児童合唱:東京少年少女合唱団

管弦楽: 新日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:崔 文洙
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オケの弦楽は、下手から第一Vn、第二Vn、Vc、Va、Cbの通常配置。ハープは下手に2台。女声合唱は舞台の一番後ろの雛壇。児童合唱は舞台の後ろ、オルガンの右側という高いところでした。そして児童合唱に並んですぐ右側、ホールの右前の角に、チューブラーベルです。

すなわちスコアの指示通り、児童合唱とチューブラーベルをきちんと高いところに置くという、心得た配置でした。

なお女声合唱はオケの入場に先立って行われました。児童合唱はまだ入らないで、オケが入場し、そうして演奏が始まりました。

第一楽章の冒頭のホルン主題から強烈な印象でした。
最初の4小節(ミラーソラファードッ、ファラーシドシラソーミー)を割合速いテンポであっさりと進んだあと、上行音型のラーシードレミーのテンポをやや落とし、そのあとのティンパニーと弦のダンダンという合いの手を、すごくテンポを落とし、強く重く、強調したのでした!このあとはテンポが遅いままで、この合いの手が3回強調されたあと、ホルンが下降してくるところ(ファーミーレードー♭シーラーソー)も遅いままで、そのまま遅いまま、次の楽節に進んでいきました。これはとてもユニークで、しかもこの主題の重々しい性質が十分に強調された、印象深い主題提示でした。

今夜の第一楽章の性格は、この冒頭の主題提示に集約されているように思いました。テンポは全体に遅めで、重々しく、厳しい性格です。緊張感がきわめて高いです。

たとえば、トロンボーンの素晴らしいソロが終わったあと、夏の行進が小さく始まってしばらく続いていくところ(練習番号21~25)。ここは弦の各パートとも前の方のプルトだけでひくところですけど、このあたりの緊張感の高さは半端じゃなかったです。夏の行進の喜びがだんだん高まって来るところなのに、喜びじゃなくて、何かただならない緊張感がしだいに高まっていく感じ。

かつてベルティーニ&都響の3番を聴いたとき、第一楽章のあまりの峻厳さ、緊張感の高さに息が詰まりそうなほどだったですが、今回のアルミンクもその方向でした。いつも書いているように、この第一楽章には途方もなくいろいろなものが詰まっていて、一度の演奏でそのすべてが出てくることはほぼ不可能かと思っています。今夜の演奏は、重々しさ、厳しさ、緊張感の高さが前面に出て、その点では聴いていて凄味、迫力があり、耳を奪われました。その反面、喜び、自由なのびのびした楽しさは奥に引っ込んでしまっていました。ときおり現れるコンマスのソロも、やや神経質な、耳を刺激するような音になっていました。

これを聴きながら、僕はなんというか、ベルティーニ&都響のときには感じなかったもの、何かぎすぎすしたものを感じてしまいました。音楽の手触りが、なにかとげとげしいという感じ。
ここから先は僕の思い込みが強すぎたのかもしれませんが、指揮者とオケの関係を暗示するような、そんなふうな「軋み」を感じてしまったのです。。。

それでも、この第一楽章はまれにみる高水準のものでした。聴きながら、「この演奏が録音されないのはもったいないなぁ、でも10年前の3番の演奏がCD化されているから、さすがにこれは録音されないだろうなぁ」などと思いながら、聴いていました。

第二楽章になって、そのぎすぎすした感じは僕にはますます強く感じられてしまいました。10年前の3番の記憶はおぼろげながらも、記憶に残る第二楽章はアルミンクの軽やかな歌謡性が充分に現れた、とてもチャーミングな音楽でした。しかし今夜の第二楽章は、第一楽章の性格をそのまま引きずってしまったような、重々しい、野の花々が沈黙してしまったような、聴いていていささかつらい第二楽章になっていました。「あーこれはもう今夜はこのままの性格で最後までいってしまうのだろうか」「やはりこの演奏は録音しないほうが良かったのだろうなぁ」などと思いながら聴いていました。

そのような第二楽章が終わって、児童合唱団がオルガンの右に入場をはじめ、そして舞台下手から独唱の藤村さんが入場してきました。そのときに、きのう書いた、「オケからの拍手」が起こったのでした。これは僕には大きな衝撃でした。アルミンクも驚いたのではないでしょうか。藤村さんが指揮者のすぐ左の席について着席したあと、アルミンクは珍しく客席のほうを少し向きました。その顔の小さな笑みに「しょうがないなぁ」みたいな諦めのような表情を感じたのは、僕の思い込みでしょうか。。。

第三楽章。これは舞台下手裏のポストホルンが、絶不調。プロのオケの3番で、このようなポストホルンを聴いたのは相当久しぶりです。ハイトーンへの跳躍、あるいはハイトーンから下への跳躍のときに音が不安定になるときがあるのは仕方ないにしても、他のなんということのないところでもミスが。。。そしてこのポストホルンの不調に加えて、舞台上のオケにもほころびが。。。この日のホルン、細かなところに粗がかなり散見されましたが、この第三楽章でも、ポストホルンの前半の出番が終わって、舞台上のトランペットが夢から覚醒させるかのようなラッパを鳴らすところ、その直前のホルンソロの静かで美しい分散和音(第344小節)がこけてしまいました。夢にひたれない第三楽章でした。。。(二日目のポストホルンは、これを払拭する立派な演奏を聴かせていただいたことはつけ加えておきます。)

第三楽章が終わって、ちょっと間合いをとり、ポストホルンを吹いた奏者が舞台上に戻ってきて、オケの一部にちょっとチューニングなどもはいり、そのあと静まって改まったところで、藤村さんが起立。そして児童合唱はまだ座ったままで、第四楽章が始まりました。

そして始まった藤村さんの歌は、素晴らしかった。冒頭の歌いだし「おお、人間よ、心せよ!」が、まさに人間に注意を喚起しているのだ、ということがひしひしと伝わってきました。
藤村さんの3番の歌を聴くのは3回目ですが、前回まではこれほどの深さを感じませんでした。アルミンクとの共同作業により達した深みなのでしょうか。
遅いテンポで、深々と歌われたこの第四楽章は、ききものでした。

第四楽章の終了直前、アルミンクの指示で児童合唱団が静かに起立しました。そして第五楽章の始まりと同時に、歌いだした児童合唱に照明があてられ、それに続いて(児童合唱が歌いはじめたあとに)女声合唱が起立して、そして歌い始めました。シャイー方式ほどではないですが、なかなかに考えられた、良い起立方式です。

第五楽章も、藤村さんの歌唱は素晴らしかったですし、児童・女性合唱ともにきっちりといい合唱でした。

そのままアタッカで第六楽章が始まり、始まってすぐに、藤村さんはゆっくりゆっくりと細心の注意を払いつつ、長い時間をかけて、座席に座りました。それに続いてこれも比較的すぐに、(おそらく第12~13小節かそこらで)女声合唱と児童合唱団が、これも静かにゆっくりと座り始めました。

この声楽陣の着席のタイミング、第六楽章が始まってからの着席としては異例の(僕の知る限り史上最速の)早いタイミングでしたが、皆が充分に注意を払ってゆっくりと静かに着席したので、音楽の流れを微塵も妨げませんでした。完璧な着席でした。当然アルミンクの指示でしょう。

いつ座るか、ということはもちろん大事ですが、より大事なのは「いかに座るか」ということ。それを今更ながら思い知った次第です。

そして終楽章、テンポは非常におそめで、おそい中に、テンポのうねりも良いし、スケール大きい深い音楽が奏でられていきます。普通なら大感動するような演奏。
とりわけ楽章最後のほうは本当に悠然としたスローテンポになり、すごい演奏でした。最後のティンパニーの大いなる歩み(練習番号32~)でテンポを上げたのはちょっと残念だけれど、これがアルミンクのマーラー3番解釈なんですね。楽章全体としては十分に聴きごたえのある、説得力のある、すばらしい終楽章だったです。


だけど、だけど。

アルミンクの目指している高みは十分に感じ取れたし、オケももちろん全力で演奏したと思います。だけど、
何か緊張感が先走っているような、ぎすぎすしたような感じ、軋みのような感じ。その感じが、この第六楽章を聴いていて、僕には最後まで拭いきれませんでした。なぜだったのか。。。管を中心に、オケにそれなりのほころびがあちこちにあったことも関係していたと思います。それから藤村さん入場時の「オケからの拍手」も僕には少なからず影響していたのは確かです。でもそれだけではなく、この感じは、第一、第二楽章の音楽そのものからすでに感じていたことでした。。。

良かったことは、最後の主和音が鳴りやんだあと、聴衆がすぐに拍手せず、会場全体がしばし静寂に包まれたことです!アルミンクは、しばし高くあげた指揮棒を、やがてゆっくりゆっくりとおろしていき、おろし切っても、拍手がまだ始まりません。アルミンクが少し後ずさりしたのを契機に、拍手が始まりました。

3番においてこのような充分に長い静寂は、めったに体験できません。かつてサントリーホールでホーネック&読響のときに体験して以来、2回目です。

そしてカーテンコール。4度、5度と繰り返され、アルミンクはその都度独唱者や合唱指導者をつれてきたり、あるいはオケのメンバーをひとりずつ立たせたりしますが、単独では指揮台に近づきません。「あれ~このままアルミンク一人の登場がなしに終わってしまうのだろうか?」と心配になりだしたころ、ようやく、六度目のカーテンコールでアルミンクがひとりで指揮台に近づき、オケが足を踏み鳴らし、アルミンクをたたえます。この場面があって良かった~、と安堵しました。

この日の演奏は、第一楽章の緊張感、藤村さんの歌唱、終楽章のスケールと深み、などなど、内容充実の演奏ではありました。オケではトロンボーンは良かったし、それからヴィオラのトップの客演の井野邉大輔さんという方が、特筆すべき存在感を放っていました。

一方でポストホルンの不調とホルンのほころびの多さは気になるところでした。これらが二日目にどう復調するのか、しないのか?「オケの拍手」は明日はどうなるのか?そして何よりも、今日の音楽から強く感じてしまった「軋み」が、明日はどうなるのか?これはもう修正不可能なものではないだろうか?

などなど、複雑な思いを抱いて、帰路についた次第です。





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Last updated  2013.08.07 10:23:56
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