カテゴリ:演奏会(2014年)
新国立劇場3月24日のコルンゴルト「死の都」を聴きました。全5回公演の最終日です。
この日の公演は、テノールのケールさんにとって、パウル役を歌うのが丁度100回目ということです!100回も歌うということは驚きですし、他の歌手による上演も含めると、海外でこのオペラが着実に上演され続けているのだなぁと、改めて思います。 今回の公演は、最終日にふさわしく、先日僕が聴いた3月18日の公演(三日目)よりも、一段と充実したものでした。 ともかくなんといっても、パウルを歌ったケールさんの素晴らしいことと言ったらありません。三日目の公演を上回る歌でした。声の美しさはもちろん、機微に富む感情のひだを自在に表現していました。三日目も充分すごいと思いまたが、それをさらに上回る素晴らしさ。ご本人も100回目ということで気合入ったことでしょう。 それから今回は、オーケストラの音が、三日目よりも色彩感が増して豊かに響いてきてました。欲を言えばさらに突き抜けるような輝きが欲しかったですが、三日目よりはずっと、コルンゴルトのオーケストレーションの魅力が伝わってきて、なかなか良かったです。 マリエッタ役のソプラノのミラーさんは、第二幕、第三幕での堂々たる歌いぶりが三日目よりもさらにパワーアップしていました。特に第三幕で、パウルへの愛を高く歌いあげるところなど、全身から出てくるエネルギーの充溢ぶりに圧倒されました。この人、こういう劇的な表現は本当にすばらしいと思います。 しかし一方で、第一幕の「リュートの歌」におけるミラーさんは、三日目と同じで、音程を高く取りすぎ、弦楽を主とするオケ伴奏と合いませんでした。 このアリア、後半はパウルも加わって歌われますが、パウルはちゃんとオケ伴奏と音程があっていて素晴らしくて、ひとりミラーさんだけがずれていました。。。このアリアはこのオペラの最高の聴きどころの一つだけに、ここでのこの歌いぶりはいささか残念でした。 第二幕での「道化師の歌」は、わたくしとしては三日目の記事に書いた理由により、歌っている道化師フリッツだけを見るようにして、パウルや他の人の演技を見ないようにして聴いていました。それでもこの歌の最後に、パウルがそろそろと道化師フリッツに近づいていくと、フリッツがパウルをきっと睨み付けてパウルを拒絶する演技が目に入ってしまいました。この歌・音楽の美しさに、このぎすぎすした演出は、本当にこのアリアの魅力を甚だしく損なってしまいます。 それから家政婦ブリギッタ役を歌ったメゾソプラノの山下牧子さん。この方、なかなか深い声でブリギッタ役として良い雰囲気が出ていました。ところでブリギッタには、第一幕が始まって間もなく、フランクと語り合う場面で、ブリギッタ最大の歌いどころのパッセージが出てきます。パウルへのひそやかな思慕を歌いあげる部分で、ここはオケの音楽とあいまって、短いけれどかなり感動的で、このオペラ最初の聴かせどころです。 この部分でブリギッタにとって一番高い音が出てくるのですが、三日目も五日目のどちらも、その高い音をスルーして歌わなかったのが、残念だったです。三日目にここをスルーしたときは僕はかなり驚きました。コンディションが悪くてここをスルーしたのだろうか、最終日はしっかり歌ってもらえたらいいなぁ、と思っていたのですが、五日目も、三日目と同じように、最初からこの音の発声をあきらめて、スルーしていました。コンディション調整がうまくいかなかったのでしょう、失敗するよりは最初から歌わない方がいいだろうという安全を考えてのことだと思います。仕方ないといえば仕方ないですが、他の部分の歌が良かっただけに、ここのスルーはとても惜しかったです。 最後に一点、第一幕でマリエッタが登場する箇所でパウルが「不思議だ!」というくだりの動作について、今回もしつこく書いておきます。この日のパウルの演技は、なかなか良かったのです。 最初マリエッタが出てくる前に、パウルは赤いバラの花束を手にとり、マリエッタに渡すべく胸の前に花束を持って待っていました。そこにマリエッタが登場しますが、パウルはその場に立ったまま驚いたように、かすかに顔を左右に小さく震わしました!内心の衝撃が、かすかな身振りではありましたが、ちゃんと現れていたわけです。そしてその場で立ったまま「不思議だ!」と言い、そのあとも衝撃の余韻が残っているように、すぐにはマリエッタに近づけず、バラの花束を持ったままそこに立っているままでした。口づけはもちろん、手を持つことも、すぐにはしなかったのです。(これに対し三日目のこの場面では、すでによく覚えていませんが、わりあいとすぐにマリエッタに近づいて、彼女の手に口づけをしたか、すくなくとも彼女の手をとったように記憶しています。それに比べれば、今回の演技は、きっちりとパウルの感嘆を表現していて、音楽とあっていて、納得できました。 ということでこの最終日は、上記したような細かな問題点はあったものの、ともかくパウルの名唱が本当に素晴らしかったですし、オケも、ソプラノのパワーも、最終日にふさわしい充実ぶりでした。これが聴けて良かったです。 なお幕切れに関しても書いておきます。最後のパウルのアリアが終わってから、オケの絶美の後奏のところで、部屋に一人残ったパウルが、ベッド上に横たわり眠っている妻マリーの頭に万感の口づけをしてから、部屋を去っていき、そして幕が下りる、という終わり方でした。台本や音楽は、ブリュージュを去って前向きに生きていこうとするパウルの気持ちを表現していますので、この演出はそれにしっかり即した、素直なもので、とても良かったです。 演出によっては、パウルがピストルをもって自殺するような様子で幕が下りるという、もともとの台本や音楽の目指しているものをまったく覆すようなひどい場合がありますから(You Tubeで見て驚きました)、そのような演出でなくて良かったです。 そして、幕が下がりきるのとオケの後奏が静かに鳴りやむのががほぼ同時で、そのあとにごく短いながらも静寂があり、そのあとに拍手が始まりました。幕が下がる途中から拍手が始まってしまうということがなく、これも良かったです。(三日目、五日目とも同じでした。) カーテンコールの最後のほうは、パウル役ケールさんとマリエッタ役ミラーさんと指揮者の3人が舞台に立って挨拶を繰り返しました。そのうちにミラーさんが、ケールさんをさし示しながら、会場に向かって大きく、1,0,0と身振りで数字を書いて、ケールさんがパウル100回目の出演だったことを祝していました。ケールさん100回おめでとうございます、素晴らしいパウルをありがとうございました! 帰りに撮った1枚、夕暮れが迫るオペラパレスです。 かくて、びわ湖2回、東京2回と、死の都が4回も聴けたという夢のような1ヵ月、深い余韻をたたえて、幕が下りました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2014.03.27 20:53:56
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