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じゃくの音楽日記帳

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2018.11.30
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メータ&バイエルン放響の巨人を聴きました。

指揮:ズビン・メータ
管弦楽:バイエルン放送交響楽団

モーツァルト 交響曲第41番 ジュピター
マーラー 交響曲第1番 巨人

11月22日 東京芸術劇場

そもそもはヤンソンス&バイエルン放響によるアジアツアーが予定されていました。しかしヤンソンスが体調不良に陥り、その代役としてメータがアジアツアーを率いることになり、その日本ツアー5回公演の初日です。

この日は、当初はマーラー7番が予定されていました。ヤンソンスの7番を聴けることを非常に楽しみにしていましたが、メータに代わり、そして曲目が大きく変更されることが発表されました。希望者には払い戻しが行われました。楽しみにしていた7番から巨人への変更というのはいささか残念ではありました。しかし、メータと言えば今年春のイスラエルフィルとの来日ツアーが、体調不良のため中止されたばかりです。悪性腫瘍の治療をしていたということです。そのメータが、病み上がりにもかかわらず代役を引き受けて振ってくれることにメータの心意気を感じ、払い戻しは露ほども考えず、聴きに来ました。​2年前のウィーンフィルとのブルックナー7番​の名演の記憶もあり、どんな演奏になるのだろうという楽しみがありました。

会場に来てみると、キャンセルした人が多かったようで、客席は半分程度の入りでした。驚くことに、指揮台には椅子が置かれていて、指揮台までのスロープもセットされていました。メータは、片手に杖をつき、片腕を他の人に支えながら、とてもゆっくりした足取りで歩んでの入退場でした。2年前のウィーンフィルとの時には全くお元気で普通に歩いていたので、これほど足が弱っているとは思ってもみませんでした。しかし指揮そのものは体力の衰えを微塵も感じさせない、気力の充実したものでした。

巨人について書きます。弦楽は、下手から第1Vn, Vc, Va, 第2Vnの両翼配置で、Vcの後ろにCbで、16-14-12-10-8でした。ホルンは上手側に2列に7人。すなわちごくオーソドックスな配置です。ちょっと変わっていたのがハープの位置でした。ピッコロとコントラバスとの間に位置し、かつ木管と同じ雛壇の一番端っこに乗っていたので、まさにピッコロのすぐ隣で、木管との一体感がありました。

曲はゆっくりしたテンポで始まりました。様々な木管による下降四度の動機が、彫り深く表現されます。やがて舞台裏のトランペットによるファンファーレは、普通に下手のドアを開けてその外で吹かれました。ただし、ドアの開け方が凝ったものでした。3回のファンファーレの最初はドアをほんの少し開けるだけ、次は少し開け幅を広くし、3回目はさらに広く開けるという方式で、だんだんと大きくはっきりとファンファーレが聞こえてくるという効果を上げていました。その後もメータは遅めのテンポを基調に、適度なテンポ変化も持って、進めていきます。上体の動きは大きくはないけれど十分な気力と余裕があり、安心しました。

第1楽章のあと、花の章が演奏されました。柔らかく美しくメロディを奏でたトランペット奏者は、多分首席のハーネス・ロイビンさん(​あの3番ポストホルンの最強の請負人​)だと思います。

そしてそのあと、第二楽章(本日は第三楽章)スケルツォ、遅めのテンポを基調にしながらも、生き生きとし、堂々としていて、素晴らしいです!僕は聴いていて、このあたりから、メータの紡ぎだす音楽の佇まいに、大きな風格を強く感ずるようになりました。うまく言えないですけど、古典派の優れた音楽が持つ端正で純粋な造形美のようなものを、このマーラーのスケルツォから感じたんです。これまで巨人を聴いてきて、このように思ったことは、もしかして初めてかもしれません。

第三楽章(本日は第四楽章)も、そのような一種の貫禄を持ちながら進んでいきます。弦のポルタメントとか、さりげなく目立たないんですけど、ツボにはまっていて本当に素敵です。そしてバイエルン放響の木管奏者たちの実に上手いこと。それぞれが個性を存分に主張しながら、突出しすぎることなく、すべてが調和しています。それから、ハープが超絶的に素晴らしいです。何気ないような一音に大きな存在感があります。ハープに関しては、上にも書いた木管のお友達みたいな位置取りも、とてもいい感じです。もっともこの奏者だったらどこで弾いても素晴らしいだろうと思います。

第四楽章(本日は第五楽章)になり、音楽はますます格調高く、ますます深く響きます。特に第二主題部の歌は、この曲からこれほどの深みが出てくるとは、と信じられないほどの体験でした。コンサートで聴いていてごく稀に、「もしかして今この音楽は作曲者の意図を超えた深みに達しているのでは」、と思うことがあります。今夜の巨人がそれでした。メータの指揮は無駄な力みがなく、ここをこうしてやろうという作為を感じさせません。そしてそこから現れてくる音楽は、実に腰が据わっているというか、盤石の安定性があり、自然で、巨大で、そしてワクワクする楽しさがあります。

奇跡のように素晴らしい音楽は順調に進んでいき、とうとう終わってしまいました。長い拍手が続き、メータはオケの各奏者を立たせました。オケは​2年前のヤンソンスとのマーラー9番​と同じで、みな唖然とするほどに素晴らしかったです。たとえば空を自在に舞うようなフルート首席のトリルとか、ちょっとなかなか聴けないものでした。

そのあと、アンコールもやってくれました。ヨハン・シュトラウス二世の、「爆発ポルカ」。いやいや、すごいサービスです、ありがたいことこの上ありません(^^)。

アンコールも終わり、やがてメータもオケも引っ込みましたが、その後も拍手が鳴り止まず、メータは車椅子で舞台に再度登場し、盛大な拍手喝采にこたえてくれました。

・・・巨人は、中学生のときにワルターのレコードで没入し、そこからクラシックに浸っていった、僕の原点の曲です。大人になってからは聴く頻度はかなり減っていたけれど、この齢になって再びこれほどの感銘を受けるとは、思いもよりませんでした。

今82歳のメータ。2年前のブルックナーといい、今回のマーラーといい、いまや次元の異なる高みに到達して、いよいよ充実のときを迎えています。「巨匠」という言葉が昨今大安売りで使われていますが、今のメータこそ、真の巨匠、と思います。願わくばいつまでもお元気で、このような音楽をまた聴かせていただければと思います。


おまけ:蛇足ながら今回幻となったマーラー7番について。今回の日本ツアーで、7番以外の演目はすべてそのまま演奏され、変更されたのはマーラー7番だけです。僕は、曲目変更のお知らせを聞いて、今のメータにとって7番を振るのは体力的に厳しいのかなと想像していました。しかし今夜の演奏を聴いて、またその数日後に演奏された「英雄の生涯」(これも素晴らしかった!)を聴いて、今のメータならマーラー7番を振ることも十分できたと思います。ひょとしたらヤンソンスが、「7番は折角自分が仕上げたので、いずれ自分がアジアツアーでやりたいから、今回はとっておいてくれますか」とメータに頼んだのではなかろうか、などと妄想しています(^^)。





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Last updated  2018.12.02 18:43:21
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