カテゴリ:演奏会(2018年)
2月20日、西新宿ブチ散歩の後、オペラ「紫苑物語」を観ました。新国立劇場音楽監督の大野和士さんの意欲的な企画の一つ、日本人作曲家による新作オペラ上演の第一弾として、西村朗さんへの委嘱で作られたオペラです。
音楽学者の長木誠司さんが、石川淳の原作をかねてからオペラに良い題材だと思っていたそうです。それを西村さんに持ちかけ、このオペラが作られたということです。弓矢の名人と狐をめぐるお話です。 作曲:西村朗 原作:石川淳 台本:佐々木幹郎 演出:笈田ヨシ 美術:トム・シェンク 監修:長木誠司 指揮:大野和士 宗頼:高田智宏 平太:大沼徹、松平敬 (ダブルキャスト) 千草:臼木あい うつろ姫:清水華澄 合唱:新国立劇場合唱団 管弦楽:東京都交響楽団 歌手は皆健闘。 千草(狐)役の臼木さんは、独自の緊張感を孕んだ異次元的な存在感があり、流石でした。2013年に観たライマンのオペラ「リア」でのコーディリア姫役の圧巻の舞台を思い出しました。 うつろ姫(主人公宗頼の妻)役の清水さんは、えげつないというか、脂ぎったというか、そういう役どころなのですが、その毒々しさを充分にたっぷりと表現していました。ブロですね。 僕の観た20日に平太(主人公宗頼の分身)役を歌った松平さんは、元々カヴァー役だったところ大抜擢でダブルキャストとして出演することになったそうです。途中低い声と同時にキーンという高い声も一人で同時に発声するところがありました。モンゴルのホーミーを生で聴いたことはありませんが、おそらくその発声法と思います。 演出でユニークだったのは、舞台後方に巨大な鏡を斜めに配置し、その角度をいろいろと変えて舞台を映し出し、不思議な効果をあげていたのが素晴らしかったです。 しかし演出全体としては、あまりに直接的というか具体的な表現が多く、僕には安っぽく感じられました。たとえば、最期に主人公が放つ3本の矢が、知の矢、殺の矢、魔の矢なのですが、射るたびに「知」「殺」「魔」という大きな漢字が、仏像の大きな顔とともに背景に大きく映し出されます。分かりやすいといえば分かりやすいですが、漫画的な安っぽさを大いに感じてしまいました。それから狐が矢に打たれて深い傷を負うところ、大きく映し出された狐の顔に、血がどろりと流れたりします。血生臭い雰囲気としてはうまく表現されていましたが、そこまで生々しい具体的な表現が必要かと僕には疑問でした。他の場面もおしなべて、具体的、表面的な説明レベルに留まってしまい、深みに著しく欠けていると感じてしまいました。 肝心の音楽。第1部は割とにぎやかというか、ちょっと騒々しい場面が続き、やや単調な感じがしました。第2部は、静かなシーンもあって幅がひろがり、それなりに楽しめましたが、それでもやはり、僕には単調さが否めませんでした。じっくり聴かせるアリアがほぼなく、全編レシタティーボという感じなんですね。現代音楽とは言え、やはりオペラですから「歌」が不足だと物足りなく感じてしまいます。西村さんの器楽曲には好きな曲が多く、多いに期待していただけに、この点は残念でした。 まったく余談ですが、残念なことと言えばもうひとつ、ひそかに期待していたのが、開演前と幕間にロビーで売られるケーキというか、甘味メニューです。毎回その演目に合わせた趣向の特別甘味メニューが出るので、今回はきっとあれだろう、と予想していました。察しのいい方はもうお分りでしょう、シフォンケーキをメインにした「シフォン物語」。ああしかし、それはまぼろしと化してしまいました^_^。 しかしともかくもこのような邦人作曲家による新作オペラの創作と上演はとても貴重な機会です。大野さんによる委嘱オペラの第2弾、第3弾に期待したいと思います。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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