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じゃくの音楽日記帳

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2019.12.19
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ギルバート&都響のマーラー6番を聴きました。

指揮:アラン・ギルバート
管弦楽:東京都交響楽団

12月14日、16日  サントリーホール

会場に着き、いつもは演奏前にプログラムを読まないのですが、今日は楽章順だけ知っておこうとパラパラと見ていたところ、本日は第二楽章アンダンテということです。そして、ハンマーを3回叩くと書いてありました。これまで僕がハンマー3回の演奏に接したのは、​2012年の佐渡&日フィル​だけです。さて今回はどんな風になるのでしょうか。

弦は下手から第1Vn,第2Vn,Vc,Va,Cbの通常配置。ホルンは下手側。ステージ後方の上手側から下手方向に順にハープ2台、チェレスタ1台、ティンパニ2セット、大太鼓、メインのシンバル・ドラ・小太鼓、木琴・鉄琴・サブのシンバルが置かれ、一番下手側に木の箱とハンマーがありました。カウベルは吊り下げ方式ではなく、通常の手振り方式で、シンバルや小太鼓・木琴・鉄琴あたりに3人用に計5個置いてありました。

さて第一楽章が始まりました。第一主題部が終わって、いわゆるモットー(ダン、ダン、ダダンダンダンのリズムの上に長調→短調の和音が鳴らされる)が登場したあと、それに引き続く練習番号7の前半(第61小節~)、木管の和音が移ろっていくところで、ギルバートはスコアのpppの指定をオケに徹底し、かなりの弱音に抑えて、後半(第67小節あたりから)では自然に膨らませて歌わせました。そして続く第二主題(アルマの主題)を、テンポをやや落として優しく温かく演奏しました。このあたりの丁寧な音楽作り、美しく、良かったです。

やがて展開部の中ほど、舞台裏のカウベル(練習番号21と24)は、普通に舞台下手側のドアをあけてその外で鳴らされましたが、その鳴らせ方がとても繊細で、いい音でした。初日の自分の席からは舞台裏でどう鳴らしているかは見えなかったのですが、もしかしたら吊り下げ方式でマレットでそっと叩いているのかなと思うくらいに、小さいが良く通る、澄んだ響きでした。(2日目は舞台裏のカウベルがたまたま良く見える席で、手振りで鳴らしていることをしっかり視認できました。)さらに良かったのが、カウベルが2回出てくるその間に挟まれた牧歌的な楽節(練習番号22〜23)を、テンポを大きく落として丁寧にじっくり歌わせていたのが、素晴らしかったです。そして曲は進み、第二主題の再現が、テンポを落としてじっくり優しく歌い込まれ、良かったです。

第一楽章が終り、ギルバートは汗を拭くなどしばしの間合いをとったあと、第二楽章アンダンテが開始されました。中庸のテンポですが、程よいアゴーギクがあり、やさしく歌われていきます。やがて練習番号53から舞台上の最初のカウベルです。先ほど書いたように普通の手振り方式で、舞台下手の打楽器奏者、ここでは2人が鳴らし始めました。この音が、第一楽章同様かなり繊細な、粒立ちがいい素敵な音で、聴いていてとても心地よいです。手振り方式でここまで繊細な響きを出させるとは、ギルバートの相当なこだわりがあるのだろうと推測します。

そしてそのあと、カウベルが止んでからのテンポが次第に遅くなって行き、練習番号55から、スコアの a tempo の指示に反して、非常に遅くなりました!ギルバート畏るべし。ここをスローテンポでじっくりと歩むことで、続くミステリオーソを迎える心的準備ができると言うか、期待感が非常に高まってきます。そのように雰囲気だてが十分に整ったなかで、いよいよ練習番号56、ミステリオーソです。全曲中でもっとも深く澄み切った心境というか、マーラーの魂が憧憬してやまない安寧というか、そういうものがここに在るように僕は感じます。終楽章と対極に位置するという意味で、この曲の中核部分と言ってもいいのでは、と思っています。ここをギルバートは、とてもやさしく、とても大事に、壊れないようにそっと守るように奏でてくれました。聴きごたえがありました。

そのあと、オーボエからクラリネットに引き継がれる悲しみを帯びた歌が、一転フォルテとなり昂揚していき、カウベルが大きく鳴らされ、ヴァイオリンを中心に高々と歌いあげられる、この楽章最大の盛り上がりの箇所です。(練習番号59から62の最初の数小節までのところです。)このあたりのテンポ取りは、指揮者によって大きく異なるところですね。ここでのテンポ関連のマーラーの指示を見ると、まず練習番号59の最初付近にEtwas zurückhaltend(少し引き留めて)と、その先にリタルダンドがありますが、それに引き続きカウベルが盛大に鳴り始める第154小節で a tempo となった以後は、その後のわずか30数小節の間に、Etwas drängend (少し急き込んで)が2回、Nicht Schleppen (引きずらないで)が3回も出てきます。マーラーはここの盛り上がりを、足取りを緩めず、張り詰めたテンションのまま一気呵成に演奏するという意向を相当強く持っていたのだと思います。その指定通りに、ここはテンポを若干速める演奏が多く、逆にテンポを落とすのは少数派です。ギルバートはここでテンポを落とし、腰をじっくりと据えて、かつ少しずつ遅くなっていくような感じで、大事に歌っていきました。自分としては非常に好きなやり方です。(2009年のレック&東響が、同じ方向性の演奏で素晴らしかったことを思いだします。)なお、第154小節からのカウベルは、3人5個と言う比較的コンパクトな規模でしたが、存在感のある、いい響きでした。

そしてアンダンテ楽章は静まっていき、最後にチェレスタ、ハープ、低弦のピチカートが、終わってしまう楽章、終わってしまう平安な世界を慈しむように順次響き、静寂の中に消えていきました。素晴らしいアンダンテ楽章でした。

第二楽章が終わり、汗を拭いたりして十分な間合いをとったあと、ギルバートは第三楽章を始めました。

その後第三楽章が終わると、ギルバートは、タクトは一度降ろしたものの、あまり間合いをとらず、緊張感をゆるめず、すぐに第四楽章を開始しました。第三楽章、第四楽章ともに中庸のテンポでした。第一楽章、第二楽章のような、良い意味での驚きのテンポ設定箇所はありませんでしたが、変にあざといところが全くなく、誠実な、安心して音楽に浸れる演奏でした。初日、二日目とも、最後の音が消えた後、ギルバートがタクトをゆっくりと下げていって降ろしきるまでは完全な静寂が保たれました。

なお第四楽章の鐘とカウベルは、第一楽章と同じように舞台下手のドアをあけ、その裏で叩いていました。鐘は板の鐘で、これもカウベルと同じように繊細な、良い音で響きました。それからハンマーの音は、初日の1回目と2回目のハンマーは、いずれもオケの他の楽器よりも一瞬早く打撃されたので、その音が良く聴こえましたが、音色としては普通の音というか、それほど重くない音でした。3回目のハンマーは結構目立っていました。ハンマー3回については、別記事に少し書こうと思います。

さすがに都響は充実したパフォーマンスを繰り広げてくれました。特に、コントラバス、チューバ、第一ティンパニなどの気合の入った演奏が素晴らしかったです。1番トランペットは初日はノリが今一つでしたが、二日目は冒頭から切れのある音で、きっちり気持ちよく聴かせてくれました。

・・・自分としては今回のマーラー6番は、特に前半の二つの楽章が、基本テンポは中庸ながらも、重要部分でテンポが落とされ、やさしく温かく大事に歌われたことに、大きな感銘を受けました。またカウベルなどの響きが繊細で美しく、素晴らしいと思いました。6番でやさしく温かくて良かったなどと言うと、何それ?と思われるかもしれませんが、僕にとってはそのようなところに強く共感を覚えた演奏でした。あと第三・第四楽章も含めて言えば、大見得を切るようなことはなく、あざとくない、しかしやるべきことは適度にやっているという、誠実なマーラーで、好印象を持ちました。ギルバートのマーラー、また聴いてみたいです。

ギルバートのマーラーは、2009年のニューヨクフィルとの来日のとき、最初は3番が予定されていましたが、1番に変更になりがっかりしたことを覚えています。その後日本では、都響との5番(2016年)、1番(2018年)、NDRエルプフィルとの10番アダージョ(2018年)が演奏されています。これらはいずれも聴かないでスルーしてきましたが、今後は聴いてみたいと思います。いずれ3番もやっていただくことを心待ちにいたします。





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Last updated  2019.12.19 18:18:31
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