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「・・・・これは・・・・」
車の後部座席。隣に座った、まだ、つい凝視してしまう、ユウコによく似た顔を持つ楓が、目の前でその黄色い紙を取り出したとき、瞬時に、脳裏にいろんなことが蘇った。 ・・・・突然の雨、あのカナダのポスター、そして、まだまだ不甲斐なかった頃の自分。 楓が言う。 「これを手がかりに、碓氷さんにたどり着いたんです」 ・・・これを。。。 少し思い惑って目を泳がせると、バックミラー越しに悠斗と目が合う。まだ、イルミネーションの明るい夜の街の中を、運転席に座った悠斗は、こちらに耳を澄ませながら、慎重に車を走らせている。楓は、僕の反応を見ながら、僕にいたった経緯を話してくれていた。ユウコが楓に遺した小さな箱。 「この間の、テレビ見ました。・・・このチラシを・・」 そう、インタビュー番組で、インタビュアーにこれを差し出されたときは心底驚いた。 「ああ。あの時はびっくりしたよ。・・・これを、ユーコに手渡した瞬間が心に蘇った・・・」 そういう僕に、 「確かに、あの時の、碓氷さんは、今思えば、無茶苦茶、動揺していましたね」 悠斗がバックミラー越しに目を合わせながら言ってくる。 「ああ・・・。」 「・・・お母さんに、手渡した?」 おずおずと尋ねてくる楓。僕は彼女にいう。 「ああ。このチラシから全ては始まったんだ」 そして話す、あの日の雨宿りのコト。芝居を見に来てくれたコト。終演後に声をかけ、待ち合わせ、家に呼んだこと。 「お母さん、大胆だったんですね。」 楓が、少し楽しそうに言う。 「そうだな~、碓氷さんは、まあ、碓氷さんって感じだけど」 悠斗も、少し楽しそうに言うから、僕も、少し楽しそうに返す。 「うるっさいな~。・・・まあ、あの頃だって確かによく遊んでたけど」 ・・・自分の芝居への情熱がなかなか報われない日々。愛せるヒトもいなくて、ただ、人好きのする容姿と、人懐っこいトークで、どんどん、オンナをモノにしていってた頃の自分。その頃の自分には、性的関係を持つことなんて、ただのゲームだった。そう、ユーコに出会うまでは。だが、ユーコに出会って・・・。僕は、真顔になっていう。 「その日から、僕は変わったんだよ。」 「変わった?」 「ああ、ユーコが僕の前にいてくれた、3ヶ月だけは、僕は・・」 楓が、ひたむきな目を僕に向ける。 「ほんとだよ、ユーコと出会ってから、ユーコが僕の前を去るまでの3ヶ月。僕は、ユーコだけに夢中だった」 遊びでできた君じゃない、その思いを伝えたかった。楓は、ただ、穏やかな微笑でうなずいて、僕の言葉を想いごと受け取ってくれる。そのイノセントな瞳に、僕は不意に蒼夜を思い出す。ユーコを失ってからまたゲームに戻った僕を引き戻し夢中にした蒼夜。 ・・・今は考えるな。 僕は自分に言い聞かせる。今は楓に集中しなくては。そして、僕はいう。ユーコのことも。 「さっき、ユーコが大胆だって言ったけど、それにはワケがあったんだよな。」 「病気のコト」 「うん。それと」 「・・・失恋したてだったから?」 楓は、落ち着いた声でたずねる。僕は驚きながら、 「どうしてそれを?」 「お母さん、箱の中に、こんなアクセサリーを残していたんです」 そういって、高価そうなそれを差し出す。見覚えのない、アクセサリーたち。楓は、家政婦さんから聞いたというユーコの恋の話をする。 『おうちの問題なの。決められた婚約者と結婚することを選んだのよ』 そう言っていたユーコ。そのオトコと、2年間も付き合っていたんだ。今、思えば、そのオトコとも、子供を産めない、いや、産んだら命が危ない、そのことで、結婚をあきらめたんだろう。ユーコの心を思うと胸がつまる。 「・・・おうちの問題か。・・・決められた婚約者、なんて、・・・お母さんも、大変なおうちのヒトを好きになっちゃってたのね」 楓が、手に持ったアクセサリーを眺めながら、ポツリと呟く。・・・と、その時、クラクションが鳴らされ、悠斗が、慌てて、車を出す。バックミラー越しにその焦った顔を眺めて、 「おい、しっかりしろよ?聞き耳立てるのに夢中になって、信号変わったのに気づかなかったのか?」 軽く茶化してみたら、少し微笑んで、 「・・・すいません。気をつけます」 ただ、そう言った悠斗だったが、そこに微かに演技のニオイを感じた僕だった。 ・・・何か、悠斗にとって気にかかる話でもしただろうか? 少し気になりながらも、また、楓との会話に戻った僕だった。 「失恋したてだったユーコ。だけど、僕とすぐに、始めたのは、、、」 「自分に時間がないと分かっていたからでしょうね・・・」 「・・・・ああ。そうでなければ、出会ったその日に、僕と、、なんてこと、なかっただろう。」 「そうですね。母も、きっと、碓氷さんといる間は、碓氷さんのことだけ愛していたと思います」 さっきの僕の言葉のお返しに、ユーコに代わってそんな風に言ってくれる優しい楓。僕は、その言葉を想いごと受け取った。 楓との話は尽きない。互いに、恋人でいたたった3か月の思い出と、会ったこともない母の話だというのに。僕たちはずっと話し続けていた。 話の途中で、ふと悠斗に目をやると、彼は、背中にまだ少しさっきの動揺のオーラを抱えながらも、慎重にハンドルを握って、運転に集中してくれている。 ・・・あの場所に向かって。 今日のゆる日記は、こちらです。バカップルにご注意ください 「box」目次1~、101~、201~(10/19更新) ふぉろみー? lovesick+も、がんばって更新中。10/18 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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