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俺の胸に頬をつけたままおとなしくしている楓。しばらく、髪を撫ぜてから、俺は天井を向いたまま、口を開いた。
「・・・なぁ、楓・・・」 しばらく口を噤んでいたから、かすれたような声が出る。ただ呼びかけただけで、少し体を堅くした楓。俺は、軽く咳払いをして、続ける。 「・・・何でそんなに不安になるんだよ?」 俺の問いかけに、何も答えないまま、ただ、顔をあげ、俺を見つめる楓の視線を感じ、俺は、楓の方に顔を向けて、続けた。小さく噛まれた唇。その瞳の不安げな光を振り払うように、 「・・・正直さ~、それって、失礼じゃね?」 軽く微笑んで告げた俺に、楓は、ハッとしたように息をのんだ。そして、楓は、俺から慌てて離れるようにして、言う。 「ごめんなさいっ。そうよね、私、、、本当に、、失礼だわ。・・・・本当に、、ごめんなさい」 震える唇。いや、震えているのは唇だけじゃない。怯えるような瞳。 ・・・あれ?なんでそんなシリアスな反応になるんだ? そんな風に思う間もなく、楓は次の言葉を口にした。 「悠斗の、おかあさまなのに・・・。こんな風に、悪い想像ばかりするのは失礼よね。悠斗も嫌な気持ちになるわよね。ごめんなさいっ」 声を震わせ、瞳には、もう涙すら浮かべて告げる楓の言葉に、俺は、 ・・・あ~あ~あ~あ~。。。 と思う。 ・・・今の言葉を、そんな風に誤解されちゃうとはなぁ。。 楓の中の自分のイメージに、自分が情けなくなる。 一方で。 そんな風に、不器用にネガティブな思考回路をたどる楓が、かなり、愛おしくもある。 ・・・楓。 俺は、目を閉じてしまった楓を、そっとそっと、抱き寄せた。 同い年なのに、どこか大人びていて、少し背伸びするくらいの気持ちで向き合っていた楓が、こんなにいっぱいいっぱいになるなんて。 いや。 いっぱいいっぱいになってくれてるなんて。 ・・・あぁ、もう。愛おしくて仕方ない。仕方ない。仕方ない。 目の前には、閉じられた瞳、震える唇。いとおしすぎてとにかくすぐに欲しくなる。だけど、 ・・・さすがに、誤解は解いとかないと、な。 俺は、腕の中、怯えきっている楓に言う。 「って、俺、どんだけマザコンだと思われてんだよ。全然、そんな意味じゃねーよ」 軽く笑って告げる俺の言葉に、楓は慎重に目を開け、顔をあげてこちらを見る。 「なあ、俺さ、親が何言おうと、楓と離れるつもりなんて全くないよ。全くない。今日、何度もそう言ったよな?なのに、さ、なんでそんなに不安になるんだよ?」 噛んで含めるように告げる俺に、楓の表情が、少しだけ緩む。俺は続ける。 「俺がずっとそばにいるって言ってんのに、そんなに不安になるってのはさ、そばにいるってこと、信じてくれてないか、それとも、俺がそばにいたって不安だってコトだろ?・・・んっとに、失礼じゃね?」 そこまで言って、大げさに口をとがらせると、楓はやっとくすりと笑った。俺はその笑顔に、ほっとしながらもさらに口をとがらせて言う。 「何笑ってんだよ~。どっちだよ?信じてないの?俺じゃ頼りないの?」 俺の言葉を受けて、楓は、今度はしっかりとイタズラ笑顔になって、 「・・・・ん~・・・・・」 って、悩み始める。 「ていうかっ、んなに悩んでまで答え、いらないって。どっちも失礼だから。ダメージかわんないよっ」 楓は、くすっと笑ってから、少し唇を噛んだ。笑顔が少しずつ遠のいていくのに反比例するように、楓はそっと俺にカラダを寄せた。 「・・・悠斗のことは、信じてるわ。・・・・信じてないのは、自分、、、かもしれない」 「・・・楓?」 「いつかはあきらめなきゃならないんだろうなって思いが、居座り始めてるの、私の中に」 「・・・んな、バカなこと、、、」 「だよね。そんなこと、思ってる割には、それでも、悠斗がそばにいない私なんて、、、想像できない。したくない」 「しなくていーよ。ありえないんだか・・」 「ねえ、悠斗・・・」 「ん?」 「私、自分が怖い」 「自分が?」 「そう。なんだか、いつか、悠斗のこと、・・・あきらめるって言ってしまいそうな自分が怖いの。だから・・」 楓は、そこまで一気に言ってから、小さく息をついた。俺は、楓の言葉を待つ。 「・・・離さないでね、お願い・・・・」 小さく囁くように告げられる、大人びた楓の中にいる、幼く小さな楓が発したような言葉。俺は、しっかり受け取って、微笑んだ。そして、楓を、優しく、大切にくるむように抱きしめてから、言う。 「心配しなくていい。楓が何を言っても、・・・俺が、離さないよ、絶対」 「・・・ありがと」 そう言って、腕の中、俺を見上げる楓。イノセントな瞳に、引き寄せられながら、 「・・・そろそろ、ちゃんとした、キスしてい?」 そうたずねると、楓は、恥ずかしそうに微笑んで、自分から、そっとキスをくれた。 「・・・これでい?」 照れながら、可愛くそんなこという楓に、 「だめだよ、足りない」 言うのももどかしく、俺は、キスを返す。最初は優しく、少しずつ、その始まりを知らせていくキスに楓も静かに受け入れるサインを返してくれる。 「愛してるよ」 いつもどおり、そう囁いて、俺は、始める。 「・・・悠斗・・」 最中にいつもどおり、俺の名をこぼす楓の唇。その響きが、愛おしくて、愛おしくて、たまらない。 ・・・そばにいるよ、楓。楓が、俺を呼ぶ、その声がちゃんと聞こえるように。 丁寧に丁寧に、ココロとカラダを重ね、一緒に、最後の高みにたどりつき、俺は、楓を強く抱きしめて、息を切らせながらも、さっきの台詞を繰り返す。 「離さないよ、楓」 言いながらも、キスを重ねる俺。 うなずきながら、ぎゅっとしがみついてくる楓。 ココロとカラダをぴたりと重ねた直後の俺たちは。 その言葉が嘘になる日がくるなんてこと、1ミリも想像していなかったんだ。
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