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テーマ:ささやかな幸せ(6737)
カテゴリ:box
1%のイエスの可能性。
ケースケとの約束を守ろうと、 イエスと答える自分を想像してみる。 微笑んで、ただ、うんって肯く自分を。 ・・・あー、私、幸せそう。この上なく。 掴めそうなくらいリアルに浮ぶイメージ。 そうだよね。 ほんとにほんとに、ずっとずっと、ごく当たり前の未来として存在していたはずだもの。 ・・・ああ、ただ幸せに肯いて、ケースケに全てを預けて、そうすればきっと幸せになれ・・っ。 そのとき。 「ぁ~~ん、ぁ~~~ん」 ぼんやりとアマい1%の思考に漂う私を引き戻すように、赤ん坊が泣き出す。 私の目はその声の主を探す。顔を文字通り真っ赤にして、必死で泣いてる赤ちゃん。 ・・・ありがと。そーだよね。あんまりアマイ想像はしないほうがいい。後がつらいだけだから。 泣き続けるそのコにココロでお礼をいいながら、 ・・・オムツかな、おっぱいかな。 1人が泣き出すと、連鎖のように、隣のコも、その隣のコも泣き出しちゃって。 ・・・あ、でも、泣かない子もいるんだ~。 カーテンの向こうから、看護士さんが2人来て、順番にあやし始める。その手際のよさに見とれていると、 「みんなかわいいだろ~?」 背後から声がかかった。振り返ると、ニッコリ笑ってこちらを見ている大柄な白衣のヒト。 「クマせんせ~」 お父さんの親友で産科医の多田先生。いつもかわらない穏やかで優しい笑顔に、引き込まれながら、ついはしゃいだ声が出る。 「よぉ。どーした?珍しいなこんなとこにきて」 「うん。なんかね、久しぶりに、見たくなっちゃって、赤ちゃんたち」 新生児室の前の廊下。大きい窓越しに、生まれたばかりのベエベたちが見られる場所。いいながら、もう一度、視線を戻して、さっきのクマ先生の言葉を思い出して、答える。 「ほんと、かわい・・・」 「だろ?見飽きないんだ、ほんと」 「センセイでも?毎日見てるのに?」 「そうだよ?全員違うからな~。いろんな子がいるよ。でもみんなかわいい。必死で泣いて必死でおっぱい飲んで」 「私が生まれたときのこと、まだ、覚えてる?」 「もちろん。あの高崎くんが、パパになった日だからな」 私が生まれて、お父さんがパパになって、そして、お母さんは・・。 自分で聞いておきながら、何も言えずにただ微笑んで、ベエベたちに目を戻した私に、 「外泊、これからか?」 クマ先生がそう尋ねてくる。私がまだ私服でいるから。 「あ、ううん。違うの。帰ってきたの」 「そうか。楽しんできたか?」 ほんとなら、寄り道なんてせずに、早くチェックを受けるようにいう先生もいるだろうけど、クマセンセはこういうヒト。 「楽しんだに決まってるか。そんな立派な指輪つけてんだから。プロポーズされたんだよな?」 言われて、私は、自分の薬指に目をやる。 『答え出るまでつけといてくれよ。俺の想いこめてるから、味方してくれるかも』 ケースケがそういったからつけっぱなしのダイヤのエンゲージリング。 「おめでとう。ミリちゃんがもう嫁さんに行く歳だなんてなー。高崎くん泣いてたか?」 早合点にそこまでいってくれる先生に、 「ううん。まだなの・・・」 「そうか。だったら、言うときそばで見ててもいいか?泣くとこ見てやりたい」 楽しそうにいうセンセイ。 「・・・違うの。ケースケに、返事が、まだ、なの。・・・保留なの」 「保留?」 戸惑った声のクマ先生に、 「うん・・」 小さく俯いて返事を返す。クマせんせーは全てを悟ったように、 「それでここにいたわけだ」 言いながら私の頭をポンポンとたたいた。 こっくりと肯きながら、 私が今ここにいるイミを、すぐに気づいてくれたクマ先生になら、 今思ってること、 ここのとこずっとずっと1人で考えていたことも、相談できる。 そう思えた。
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