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「私の発症が分かったときにおとーさんがね・・」
窓越しに、いつのまにかまた静寂の戻った新生児室に並ぶベエベたちの寝顔を見ながら私はポツリと切り出した。 「・・高崎君が?」 隣に並んで同じようにベエベたちを見ながら先を促すように問いかけてくれるクマ先生。 「・・・お父さん、私のこと、僕が必ず守ってあげるって言ってくれたの」 私の言葉に、ふっと笑って、クマ先生は言う。 「守ってあげる、か。ミリちゃん、高崎くんは確かに普段はだらしなくて優柔不断で頼りないが、その言葉は信用に値するぞ。医師としての彼だけは頼りになる」 私も同じように笑って、 「・・・分かってる。・・・でも・・・」 そういったけど、それより先を続けられなくなる私に、クマ先生は、少しうなるような息をついてから、体勢を変え新生児室の窓に背中を凭れるようにしてから、 「案の定、そんなとこだろうと思ったけど、・・・まあ、いい。自分の言葉で説明してごらん。どうせ1人で抱え込んできたんだろ?」 私は、クマ先生の言葉に、やはり彼が大筋を理解してくれていることを知り、誤解を恐れることなく、言葉にする。目の前に並ぶベエベたちから目をそらせないままに。私に希望とあきらめの全てを再確認させてくれるベエベたちから目を離せないままに。 「私、お母さんが羨ましい。ちゃんと、好きなヒトとの間に赤ちゃんが生めて」 余命わずかになったと悟ったときに、赤ちゃんが欲しいとねだったというお母さん。 そのときのお父さんは、医師としてオットとしてどれほどの葛藤をしただろう。 だけど、結論は。 命に限りがあったからこそ、1度だけチャレンジして、私がお母さんに宿って。 だけど、私には。 延命がかなうようになったことで、私には、そんなチャレンジすらできない。 いえ。 できないのではなく、余命が長いのにもかかわらず、出産で落命のリスクがある限り、ケースケは、許してはくれないだろう。 ・・・余命が短ければケースケだって、ワガママを聞いてくれたかもしれないのに。 私は、震えそうになりそうな声で続ける。 「お父さんの言う守り方、なんて、私、望んでない・・」 全て吐き出させようと、ただ、黙って見守ってくれるクマ先生の前で、私はその言葉を吐き出した。 「・・・長生きなんてできなくていい。延命のための手術なんて、、、できなかったらいいのに・・」 ポツリと気弱に響いた言葉。そして少しの沈黙。何も言ってくれないクマ先生をゆっくり見上げると、腕組みをして、考え込むように目を閉じてしまっていた。見上げる私の気配を感じてか、クマ先生は、ゆっくりと目を開けて、私を小さい子を見守るような危なっかしげなものを見る目で愛しく見つめてくれながら言う。 「ミリちゃんのそんな言葉聞いたら、高崎くん、それこそ、泣くぞ?」 私は、確かにひどい自分の言葉に、自分自身も傷つきながら、続ける。 「分かってる。私、ひどいこといってるの分かってる。お父さんが、ずっとずっと、、、研究してきたこと否定するみたいで。だけど、、ねえ、クマせんせ、私・・・」 私は、しっかりと、息をついてから言った。 「・・・私、手術は、受けないどこうと思ってるの」
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