|
カテゴリ:box
「・・・私、手術は、受けないどこうと思ってるの」
初めて口に出したその言葉。自分のその言葉に、自分の、言葉なのに、立っていられなくなるくらい足元がふらつく。私は思わず、目の前の壁にある、手すりにつかまって、目を閉じる。 『結婚しよう』 ケースケの言葉にうなずいたら。 きっと、ケースケは、私を大切にしてくれるだろう。 こんな私を。 大切に、幸せに、しようとしてくれるだろう、全力で。 そこには、掛け値なしの完璧な愛情があることが分かる。 だけど。 だけどね。 プロポーズに肯く私。喜んでもしかしたら叫ぶかもしれないケースケ。 うん。私、幸せな顔してるだろうな。 みんなに、報告して、みんなも、きっと祝福してくれて。 みんな。きっと。ケースケの両親だって。 うん。私、もっと、幸せに笑っているだろうな。 だけど。 だけど、その先は? しばらくは、幸せにいられるだろう。 2人で暮らして。 今までどおり。 ・・・ううん。 結婚して、夫婦として、2人で暮らすんだよね。 2人だけの暮らし。 オットなケースケ、幸せなアマ笑顔、たくさん見せてくれるんだろうな。 幸せで幸せで幸せで仕方ないアマイ時間、たくさん見せてくれるんだろうな。 だけど。 だけど、私は、いつか、きっと。 ・・・ううん。 いつも、きっと。 思い続けるだろう。 ・・・ケースケノアカチャンウミタイナ。 って。 そして多分。 ソファに並んでケースケの出るドラマを一緒に見ているときに、紙おむつのCMでアカチャン見ちゃうとか。 そんなありふれた日常の中で、私は、時には耐え切れず、ぎこちなく、目を閉じてしまう。 ケースケは、優しいケースケは、そんな私を、何も言わずに自然な時間よりは少し強めに抱き寄せてくれる。 その腕に、胸に、甘えながらも、私は、思う。 ・・・アカチャンウメナクテゴメンネ。 涙をこらえるために、少し大きく息をつく私の耳元に、ケースケの声がアマく囁く。 ・・・愛してるよ、ミリ。オレ、ミリがいてくれるだけで、幸せすぎる。 その言葉にウソがないことは分かる。 そんなこと分かっている。 だけど。 だけど。 愛してるヒトを、もっと。 愛してるから、もっと。 もっともっと、幸せにしてあげたいって、私は思う。 ・・・ダケドワタシジャムリ。 それなら。 もっともっと、幸せになって欲しいって、次に思う。 ・・・ワタシジャナケレバイイノニ。 どれだけココロから愛されてることが分かっていても。 どれだけ私がいるだけでいいんだって思ってくれていても。 それでも、やっぱり、私は。 少しずつ少しずつ申し訳なさといたたまれなさで、磨り減っていくだろう。 少しずつ少しずつ苦しさから殻に閉じこもって、笑えなくなっていくだろう。 ・・・ケースケですら、疲れきるような私、になるまで。なれる、まで。 疲れきったケースケが、他の誰かを探したら。 ありえなくない、重い長い時間がたてば。 もしも、そうなったら。 ・・・イナクナリタイ。 疲れきったケースケが、それでも根気強く私のそばにいようとしてくれたら。 そうかもしれない彼なら。 だけど、それなら、尚のこと。 ・・・イナクナッテアゲタイ。 結果は同じ。 同じ結果なら。 長い時間なんていらない。 ケースケの大切な時間を奪うことはできない。 長い時間なんていらない。 延命なんて必要ない。 私に与えられた時間だけで。 ・・・それだけで十分なの。
小説の目次 ふぉろみー?←リアルタイムのとぼけたつぶやきはこちら お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[box] カテゴリの最新記事
|