|
カテゴリ:box
・・・なんでだろう、いつになく、落ち着く。
俺は、応接室の窓から庭を眺めながら、そう思っていた。リビングでいいのに・・、そう思いながら、ミヤコさんに先導されて楓を連れてきたのは、この広い応接室。高級かも知れないがなじめない調度品。俺はこの部屋が昔から、苦手だ。口先だけの言葉と、嘘だらけの微笑みがあふれた部屋。会いたくもない客に会わされ、いつもこの家の跡取りとしての自分でいることを強いられたのがこの部屋だったからかもしれない。・・・だけど、今はなぜだか、落ち着くんだ。 ・・・なぜだか、だって? 自然と微笑んでいた。少し考えれば、いや、少しも考えるまでもなく、理由が歴然としているからだ。 ・・・楓が、いるからだ。 俺は楓を振り返る。ソファに座る楓。自宅の一室でありながら、ずっと好きになれなかったこの部屋が、俺にとって、心落ち着く場所になる。 ・・・そう、楓がいるだけで。きっとそれは世界中のどこだって。 そう考えるだけで、さらに愛おしく感じ、すぐそばに駆け寄りたくなる気持ちを抑えるのに苦労する。 2人きり、すぐそばに揺れる楓を感じていると、やっぱり抱き寄せてキスしたくなってしまうから、オレは、立ち上がってこの窓のそばまで来た。キンチョーからなのか、それとも、やっぱり、きっと、ここにいるせいなのか。いつになくぼんやりした様子の楓に、オレはくだらない冗談で声をかける。確かに小さく微笑んだ楓。 だけど、それも、そのときだけで。 庭を眺めるフリをして、楓には背中を向けたまま、薄く窓に映る楓の姿を、表情を、注意深く見守っていると楓のココロが手に取るように分かる。 ・・・この場所に自分がふさわしくない 昨夜繰り返したように、きっとそう感じている楓。だから、楓・・・。と、そう、楓に声をかけようとして、なんだか、楓にオーラがかかったように感じる。俺を、拒絶するオーラ。 ・・・もしかしたら、俺もこの部屋とコミで、遠く感じられてるのか・・・? 俺は焦りにも似た感情を覚える。ここは俺とは関係ない場所なんだ。俺自身とは何も。俺自身もずっとなじめずにきた部屋なんだ。だから、楓が、違和感を覚えているなら、それで、それで、俺と、同じ気持ちなのに。それなのに、もしも、この部屋ごと俺に対してまで、また、気後れなんて感じられていたら。 と、考えると同時に、こんなところに、楓をムリにでも連れてきた自分に嫌悪感が走る。確かに、こんなとこ、楓にはふさわしくない。 ・・・楓が思っているのとは全く逆の意味で。 俺は突然目が覚める。楓と俺のことは俺と楓の間だけのことなんだ。なのに。母さんに気に入られなかったと、あまりに憔悴しきった楓に、そんなことない、なんて、しっかり分からせようとするため、なんかに、俺は・・・。そんな必要なかったのに。親に気に入らせる必要なんてないんだ。俺だけ、しっかり愛してさえいれば。親に何を言われても、楓を手放すツモリはないと、俺さえ、しっかりしていれば。それなのに。なんでこんなところに、楓を。楓の、素直で純粋なコワレそうな繊細なココロを持ち込んでしまったんだろう。 ・・・ごめん、楓、もう、いいよ、帰ろう。 小さく小さく見える楓に、そう、声をかけようとしたときに、ドアが開き、母さんの声が響き渡った。 「ごめんなさいね、お待たせして」 楓がすばやく立ち上がる。にこやかな微笑を浮かべた母さんが、こちらに歩み寄ってくる。俺は慌てて、楓のそばに駆け寄った。母さんが、いきなり何かろくでもないことを口にでもしたら、すぐに、手をとって、連れ出せるように。だけど。母さんは、満面の笑みを浮かべて、 「いらっしゃい、楓さん。ほんとに嬉しいわ。来てくださって」 言葉通り本当に嬉しそうに、そう言った。楓は、少し、虚をつかれたように、息をついてから、 「いえ。すいません。お招きいただきありがとうございます。お言葉に甘えさせていただいて、図々しくお邪魔させていただきました」 そう答えてまた息をひとつつく。緊張している楓に気づいたのか、微笑みに人懐こさをプラスしてから、いたわるように、母さんが、 「そんな他人行儀なことおっしゃらないで。・・・これから家族になる間柄じゃないの」 そういった言葉に、楓同様に、心底、十分、驚いて、思わず口を開いたまま、母さんの顔をじっと眺めてしまった俺、だった。
小説の目次 ふぉろみー?←リアルタイムのとぼけたつぶやきはこちら お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2012.02.08 14:20:22
コメント(0) | コメントを書く
[box] カテゴリの最新記事
|