|
カテゴリ:box
・・・ああ、もう俺何やってんの?
きっと、そんなこと思いながら、天井を仰ぎため息をつく悠斗の様子を見て、くすっと微笑んだとき、同じように微笑むお母さまと目が合いました。その目はどこまでも優しく微笑んでいて、昨日のギャラリーでの事なんて、夢だったみたいで。だけど、もちろん、一番は。 ・・・さっきの・・・・ いきなりの、お母さまからの、私と悠斗の結婚を受け入れてくれる言葉。 ・・・ほんとに、ほんとに、、、私なんかで、いいのかしら。・・・こんなにも、場違いな私なのに・・・ そう思いかけて、私の思考は立ち止まりました。 ・・・だけど、そういえば・・・ そう。お母さまが入ってきた瞬間から、あんなにもよそよそしく感じていたこの部屋の空気が、不思議なことに、やわらぎ始めたように感じていました。 ・・・どういうことだろう。普通なら、逆、じゃないかしら?もっと緊張してもいいはずなのに。 そんなこと思いながら、この部屋のムードの変化に戸惑う私の目の前には、悠斗にあきれたように微笑んでいるおかあさま。その姿を見て、私は、気づきました。 ・・・きっと。お母さま、が、とてもこの部屋にふさわしい方だから。 華やかで明るくて、そしてもちろん、とってもお綺麗で。どんな角度からもこの部屋に溶け込んでいて、この部屋だってお母さまを主人として受け入れていて。 ・・・そして、悠斗だって。こんなに、何やってんの?、な顔をしてるときだって。 どんなに崩れた時だって、やっぱり、その佇まいは、この部屋に引けを取っていません。 ・・・ふさわしいヒトの数が増えたことで、バランスが取れたってことなの。・・・だけど、私は・・・。 また少し、ココロがいじけそうになってしまいそうで、だけど、せっかくの和らいだ空気を壊すのも気が引けて、、、 ・・・そうだ。 私は、私が唯一自分が誇れるもののコトを思い出して、隣においた紙袋から、包みを取り出して、そっと、手のひらで包みこむようにしてから、そんな私を見守る隣からの悠斗の視線を感じたまま、 「・・・お気に召すかどうか、分からないのですが、受け取っていただけますか?」 ゆっくりとお母さまに手を伸ばしてその包みを差し出しました。お母さまが、すぐに中身を察したように、差し伸べてくたその手にそれを慎重に手渡すと、 「・・・ありがとう」 そういいながら、優しい目で手の中の包みを見つめました。同じ目で、私の方を向き直り、お母さまは、 「開けさせていただいていいかしら?」 「もちろん」 テーブルの上に包みを置き、かけた細いリボンをほどくお母さま。ゆっくりと包みを開いたその中からは、マンションの飾り棚の中から選んできた、丸湯呑。 ・・・『いいの?』 マンションの飾り棚の前で。私が、手土産に焼き物を選んだことに、戸惑ったようにそう訊ねてきた悠斗。 ・・・『いいの』 微笑んで、そう答えた私に、 ・・・『だけどさ~、そんなことしたら、さすがに、楓だってことバレちゃうぞ?』 覆面作家でいることをいつも気にして守ってくれようとする悠斗。その優しさと心配性があったかくて、微笑んで、 ・・・『いいの』 もう一度、そう答えた私に、悠斗はもう何も言わなかったけれど。 私は、選んだその湯呑をしっかりと手で包み込んで思いをこめました。 きっともう気づかれているから、とか、お母さまが焼き物が好きだから、とか、そういう理由だけでなく、私がもし、キンチョーしたり、そのせいで、失敗したり、したとしても。 ・・・あなたはきっと代弁してくれる。わよね? 私という人間を。私自身の言葉なんかよりももっと如実に顕してくれる、私が生み出した焼き物たち。だから。 そんな気持ちで選んだ湯呑は、今、おかあさまの手の中にありました。 そして。 手に取った湯呑を愛おしそうに眺めていらっしゃるおかあさまの優しい瞳に、今度こそ、この部屋にもこの家にも、お母さまにも受け入れられたような気がして、ふっと息をついた私に、悠斗もほっと息をつくのが分かりました。 おかあさまは、愛しげにその焼き物をしばらく見つめた後、もう一度、感触を味わうように、両手でしっかりと包み込んでから、私に目を向けました。 「・・・素敵だわ。本当にありがとう」 少し、でも、確実に親しみを増した口調で話しかけてくださるお母さまに、私は、ただ、 「気に入っていただけてよかったです」 「あなたが、焼いたもの、なのね?」 静かに確かめるように、問いかける言葉に、 「はい」 素直にそう肯いた私。お母さまは手に、湯飲みを持ったまま、立ち上がり、 「ねえ、楓さん、ちょっとこちらにいらして」 柔らかく微笑んだまま私を促しました。悠斗と一緒に立ち上がり、入ってきたドアの方へと戻るお母さまの後を追いながら、お母さまの向かうその先に、さっき前を通ってきたはずなのに、緊張からまったく自分の目に入っていなかった飾り棚があることに今さらながら気づきました。大きな大きな飾り棚。どうやら中には、おかあさまのコレクションらしい焼き物がたくさん並んでいて・・・・・? ・・・・って、こんな・・・ことって・・・ 思わず足を止めた私に、 「・・・楓?」 同じように立ち止まり、戸惑ったように覗き込んで訊ねる悠斗の声には反応できず、飾り棚のそばに立ち、私を見つめるお母さまをすがるような目で見つめ返してしまう私でした。
小説の目次 ふぉろみー?←リアルタイムのとぼけたつぶやきはこちら お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2012.02.15 00:00:35
コメント(0) | コメントを書く
[box] カテゴリの最新記事
|