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「・・・すごく、自分が場違いで、違和感を覚えるの」
小さくつぶやく楓に、俺は、なりふり構わず、口にする。 「何言って、、なあ、・・・オレとのコト、、やめる、なんて、言わないよな?」 弱く響いた俺の声に、小さな沈黙。それを嫌うように母さんが言う。 「違和感?ねえ、楓さん。それは、逆の意味で、じゃないかしら?」 「・・・逆?」 いぶかしげに問い返す楓に、母さんは、微笑んで、 「ええ。ここには、確かにお金がかかった調度品があるわ。だけど、楓さん、あなたと、あなたが創り出すものは、お金という価値に置き換えることができない次元のものよ。私はそう思うわ」 母さんは、そういって、また、飾り棚にちらりと目を向け、楓をじっと見つめた。 「・・・昨夜、シオリさんと別れて、ここに戻って、あなたの作品を眺めていたら、急に自分が恥ずかしくなったわ。こんなにも、ステキな作品を生み出す、あなたのようなヒトが、息子を愛してくれているのに、・・・ムリヤリ引き裂こうとしている自分が。・・・・・・本当に素晴らしいのに。作品も、あなた自身も」 「もったいないお言葉です」 小さく返した楓に、 「ただね、昨日言ったことは、シオリさんの手前、というだけでなく、やっぱり、本当に、作家としてのあなたにとても期待しているからでもあったのよ。この家に入ることは、作家としてのあなたに決してプラスにならない気がして」 「俺と楓が結婚したって、楓をこの家、に入れるわけじゃないって」 はっきり言う俺には例によって耳を貸さずに、母さんは、マイペースに続ける。ったく、なんだか、オレ、透明人間になった気がするよ。 「私もね、シオリさんと同じように、広川の妻になることを決められてしつけられてきたわ。それでも、今でも、くたびれることがあるの。いろんなしがらみや、人間関係、裏表のあるお付き合い、そんなもろもろにね。ストレスフルな暮らしに、少しずつお酒の量も増えたわ。・・・もちろん、主人はとても素晴らしいヒトだし、その妻としての暮らしは、とても、充実はしているけれど・・・」 そういって微笑んでから、 「あなたほどの才能のある人が、こんな暮らしを送る中で、あなたらしい作品を作れなくなるようなことがあったら、それは、重大な損失のような気がしたわ」 「だーかーらっ、こんな暮らしなんて、させないっての」 どうせ無視だろうから、ぼそっとつぶやいた俺をちらりとだけ見て母さんは続ける。 「だけどね・・」
小説の目次 ふぉろみー?←リアルタイムのとぼけたつぶやきはこちら←カギ外しました。またどーぞよろしく。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2012.09.20 06:41:15
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