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「だけどね・・」
言いながら、母さんは、飾り棚の方に目を向けた。 「・・・昨夜、あなたの作品の数々を1人穏やかな気持ちで、ゆっくりと眺めていたら、そんな思いも消えたわ」 そう言ってから、楓に向き直り、微笑んだ母さんは続ける。 「あなたなら、・・・きっとたくさんのつらいことを乗り越えてきたあなたなら、意外と飄々とやっていけるのかもしれないってね」 母さんの言葉に、楓は小さくはにかんだ。俺は、その笑顔に魅了されながら思う。 確かに。 確かに楓は、恋人を目の前で失う、という過酷な運命を経ても、また自分を取り戻して、自分らしい作品を作り続けている。触れればすぐに崩れそうな繊細さの中に、しっかりとした芯のある強さを持っている。 愛おしく見つめ続ける俺の視線に、楓はくすぐったそうに一瞬の視線をくれた。 それだけで。 あぁ、もう、胸が締め付けられるくらい、愛おしくてたまんなくなるんだ。 ・・・たまんねー、キスしてー。。 そのとき、俺のやばい思考回路を察知して断ち切るかのように、かあさんは言う。 「それにしても、ここのところの、あなたの幸せな作品の後ろにいたのが、まさか、悠斗だったなんて」 楓は、その言葉に、小さく微笑んでから、 「・・・悠斗さんがいなければ、今の作品たちはありません。いえ、というよりも」 短く目を閉じて、俺をもう一度チラリと見て、楓は続ける。 「・・・悠斗さんがいなければ、今の私自身もありえません。」 柔らかくも凛と響いた楓の言葉に、一瞬の静寂。 ・・・楓、こっちの台詞だよ。 ありったけの想いをこめて、楓を見つめる俺に、 「楓さんが幸せな作品、作り続けられるようにしっかりするのよ?」 声をかけてくる母さん。 「・・・分かってるよ」 ぶっきらぼうに答えながらも、楓から目が離せない。そんな俺の視線にくすぐったそうに、でも、ゆっくりと視線を合わせてくれた楓の愛しい瞳。吸い込まれてしまったように、視線を外せないままでいる俺に、母さんが言う。 「あぁ、でもその前に、まだ大切なお仕事が残ってるんだったわねぇ」 ・・・ったく、何度も、言われなくたって・・・ 「分かってるよっ」 今度はさらにぶっきらぼうに答えた俺に、あきれたような一瞥をくれた後、一転、子供のようなムジャキな顔つきで楓に向き直って身を乗り出し、 「ねえ、ねえ、ところで、楓さん、ワタシね・・」 あの作品の作者に会えたら聞きたかったことがたくさんがあるんだと、あれこれ質問を始めた母さん。嬉しそうに、熱心に問いかける母さんに、几帳面な、それでいて、やっぱり嬉しそうな表情で応じる楓、それぞれの言葉は門外漢のオレにはほとんど理解できない専門用語で満たされていて、ただただ言葉のラリーを見守るしかないままで。 ・・・・てかさーーー・・・・・ ココロで、ついぼやきかけたときに、ふたりがそろってこちらを向いた。モノといたげな表情で見つめただけの楓とは違って、母さんはすばやく、ツッコんできた。 「なんか言った?」 「え?あれ?声に出てた??」 「ええ。何を言ったのかは聞き取れなかったけど。・・・なあに?」 俺はちょっと躊躇したけれど、やっぱり、ガマンできずに言うことにした。 「・・・あのさーーー、母さんさ・・・」 「何なの?」 「・・・オレより仲良くなられても困んだけど」 口をとがらせた俺の言葉に、楓がくすっと笑った。
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最終更新日
2012.09.23 23:37:25
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