box307 ~悠斗~
母さんは、今日何度も繰り返した呆れ顔で、「・・・バカな子ね。母親にヤキモチやくなんて。・・・・楓さん、この子っていつもこんななの?」問いかけられた楓は、ちょっと俺を見てから、はにかんだ(それもまたたまんなくかわいい)表情で、「・・・ええ・・・・まあ・・・」そう応える。母さんが首を振ってわざとらしいため息をついたところで、ちょっと遠慮がちなノックの音が聞こえた。「はい」母さんが応じると、ドアが小さく開き、瑞希がちょこんと顔を覗かせた。「ねー、もう、ワタシも、入ってい?」そう訊ねる瑞希に、「ええ、いいわよ」ニッコリと答える母さん。「やった」瑞希は同じようにニッコリ笑って、まるでウサギが跳ねるように嬉しそうな足取りで、こちらに来て、当然のように、楓の隣に腰掛けた。そして、なにやら手に持っていた本を広げた。それは、陶芸の本で。「ねー、楓おねえちゃん、私ね、この間窯に連れて行ってもらってから、いろいろ、勉強したの」そんなこといいながら、楓と、そして、母さんと、熱心に話し始める。・・・なんだよ、また、のけもんかよっ。ココロで小さくぼやきつつも、別に本気で腹を立ててるわけじゃない。大好きな陶芸のこと、キラキラした表情で話す楓を眺められるのも、これはこれで素敵な気分だ。・・・俺も、もっと、陶芸のこと勉強しようかな。そんなこと、思う。楓自身、だけ、でなくもっと、楓が見ている世界を、楓が抱えている才能を知りたい。それにもちろん、・・・俺だって、俺にだって、あんな顔で話して欲しいもんな。俺は立ち上がり、ゆっくりと飾り棚の方に向かう。ガラスの向こうに居並ぶ楓の作品たち。楓が楓自身を映すように創り上げてきた小さな分身たち。愛おしい感情がその作品に向かってとめどなくあふれ出す。・・・こんなにも、こんなにも、たくさん。ずっとずっと前から、俺の近くにいたなんて。そして、俺は、またすぐに、楓を感じたくなる。楓を確かめたくなる。・・・手、ぐらい握ってもいいよな?・・うん。自分で自分に許可を出しながら、ソファの方に向かって歩き出した俺の後ろでもう一度ノックの音がした。今度は、遠慮などかけらもない、ノックの音。 小説の目次ふぉろみー?←リアルタイムのとぼけたつぶやきはこちら←カギ外しました。またどーぞよろしく。