box117 ~高崎~
足早に去る新谷を見送りながら思う。彼には彼なりの苦悩があるようだ。彼自身も戸惑っているような・・・。・・・そんな風に、悩んでみるのも悪くない。しっかり悩むんだ、新谷くん。ただ優秀・真面目一辺倒でここまできた彼が、医者としての自分と、男としての自分との間で悩むのはいいことだ。きっと、僕が、莉花を愛したときに、愛し続けたときに、感じ続けていた同じ苦悩。悩み続けることで彼は、また、医者として一回り大きくなることだろう。僕は、小さくため息をついてから、静かにドアを開けた。ミリは携帯を握ったまま目を閉じていた。・・・苦痛に?っと、一瞬慌てるが、その表情から、症状からではなく、精神的なものからだと、気付く。「・・・ミリ」ミリは静かに目を開く。ぼんやりとした目つき。僕はどうやら美莉が勝手に止めたらしいモニターのスイッチを入れなおす。ほかの機械にも電気を通す。「・・もう、電話、いいなら、電源切りなさい」ミリは、小さく微笑んで、携帯の電源を切った。「ったく、なんて患者だよ。警告音の鳴っているモニターを切るなんて」笑っていう僕に、「だって、うるさいんだもん。人が電話で話してる時に」笑って答えるミリ。笑っている場合じゃないけれど、それでも、お互いに、笑って。「・・・今は?」ミリは、軽く微笑んで、なんにもない、と言う風に静かに首を振る。「そうか」と答え、僕はミリのベッドサイドのチェアに腰を降ろす。「・・・なんて言われたんだ?それとも、なんか言ったのか?胸が痛むようなこと。アラームが鳴ってしまうほど」ミリは、少し唇の端を上げた。話すつもりはないらしい。少しうつむいて、握ったままのケータイに視線を落とすミリ。その憂い顔に、僕はやはり口に出して聞いてしまう。昼には聞かずに保留したことを。「・・ミリ。なぜ、慶介くんに本当のこと、話さないんだ?」やっぱり聞いておかなくては。医者としてはもちろん、父親としても。←2コクリでよろしくお願いします。いつもありがとうございます。今日のゆる日記の方は、こちらです。バカップルにご注意ください