和田秀樹著「富裕層が日本をダメにした!」
著者は1960年生まれの精神科医。2004年に正論新風賞を受賞している。映画監督作品もある。本来は映画を作りたかったので、その費用を稼ぐために医者を目指したらしい。以下、目次第一章 金持ちの嘘が日本人を蝕む 経営側の一方的な論理が通った製造業の派遣解禁 自信を失うと外国のイデオロギーを従順に受け入れる日本人 二枚舌で進めた小泉竹中ラインの経済政策 フリーターやニートは甘えの産物なのか 中高年は働きのわりにコストが高い? クビで脅かさないと人は働かない? 青色発光ダイオード裁判で中村修二氏をもてはやしたメディア 研究は個人の力だけでできるのか? 金持ちが得をする公立中高一貫校の規制見直し 建築コストをかけずに弱者を救うべき 現在の世界を資本主義か社会主義かで色分けをする愚 労使の知的レベルが開き、労働組合が弱体化した 属人思考が強く、属事思考ができない日本人 北朝鮮の問題が国際ニュースを占める害 飲酒運転取締りは地方に任せるマター 善悪二元論で世論を誘導するマスメディアの罪 テレビの情報に対して無防備ではいけない マスコミは原則的に金持ちサイド テレビに対するも妄信が東京一極集中の社会をつくる 携帯文化の発達が長文読解力の低下を招いている 日本人の国語力はアジアで最下位 世界に誇れた江戸時代の大衆教育 左翼の』学歴社会批判が金持ちの世襲を容易にした いい大学を出ても意味はないと伝えるマスコミの嘘 金持ちは貧乏人よりもフレキシブル グローバルスタンダードは単なるアメリカンスタンダード アメリカのごり押しで進むインターネットサービス 既成事実をスタンダード化させる手法を黙認していいのか第二章 金持ちの嘘で日本経済が沈む 規制緩和と民営化は本当に経済を上昇させるのか 国民が総中流化したほうが経済はよくなる 貧富の差が大きいほうが社会は活性化するのか 人件費を下げれば企業は持ち直す? 国民が豊かで質の高い製品が作られる国が強い ヨーロッパの自動車メーカーが堅調な理由 累進課税が強化されると経済が悪くなる? 年功序列、終身雇用は会社をダメにする? 株主と会社の利益が一致しないと会社の成長はない 企業活動の目的は上場にあるのか チームの力こそが成功をもたらす 外国の格付け機関に日本企業の評価はできない 外国人に投資を頼るから格付けされる 嘘を見抜くために逆張りの思考が大切 人気投票で株価が決まるニューエコノミー 株を分割するだけで会社の価値が急上昇するわけがない 外資よりも内需重視の政策に早急に方向転換を 人は差をつけなければ頑張らない? ITにもバイオテクノロジーにも限界はある第三章 金持ちの嘘で日本がダメになる 福祉ばかりすると経済が伸びない? ゆとり教育が目指すのはアメリカ型社会 地方の再建には教育のレベルアップが必要 金以外のインセンティブが閉塞感を打破する 地方に金をばらまくから都会が損をする? 優秀な人材が集まるとその地域の教育レベルが上がる 知の拠点を日本各地につくるといい 企業の東京一極集中は異常事態 日本最大の地方都市、名古屋と東京の関係 都会に住む人が過疎地を守るフィンランド 質の高い大きな政府かが国をよくする 官から民への発想でなんでもうまくいくのか 外資に厚遇で迎えられる官僚は優秀? アメリカの司法を参考にした裁判制度 裁判員に選ばれたら予想以上の重荷になる 株式会社の参入が日本の農業を救うか 自国の文化に誇りを持たない国は負ける 金持ちは我が子に努力をさせない 金がある人間ほどもてるのは当然か? 金持ちが多額の寄付をするアメリカ ベンツに乗りながら給食費を払わない親 相続税100%のメリットはたくさんある 土地や建物は利用価値に基づく適正価格に落ち着く 脱税は笑って「すますことのできない犯罪である 全国のレジをホストコンピューターにつなげればいい パチンコ店の税務調査を徹底しないといけない 9条改正を望むなら財産を提供する覚悟を持て 税金が高くて日本を出ていく、徳のない金持ち 国をよくするためには徳の教育こそが大切第四章 金持ちの嘘にだまされないために 嘘を嘘と見抜くための「メディアリテラシー」 金持ちの嘘に対抗するための選択肢 親の格差を子どもに伝播させない 子どもの教育への投資はリターンの期待値が高い この国を本当によくするリーダーを見極める技術を 以下本文から引用 ”マスメディアがつくり出す善悪二元論の暗示力はい大きい。‥‥ ‥‥精神科医や心理学においては、人間は選択肢を多く持ち、多様な考え方をすることによって心が成長し、また心の健全が保たれるという説が有力である。白でなければ黒いう考え方は心に悪い。これを専門的には「二分割思考」というのだが、見方だと思っている人がちょっと悪口を言っただけで「あいつは敵になった」という考え方をすると、それは欝の原因になるし、友達を減らす。8割は味方だけど2割くらいは自分のことを嫌っている部分もあるんだなと受け入れていれば、無理のない人間関係が保てるわけだ。 人間というのは認知的な多様性をもっている。敵か味方かわからない相手に対し、敵か味方か決めつけないで、「敵かもしれないが味方かもしれない」というサスペンドされた状態に耐えうる能力が精神的な成熟とともに身についてくるのだ。‥‥‥‥多様な選択肢を持っていると心の健全を保てるのと同様に知的レベルも上がる。しかし、テレビは「決めつけ」をやりたがるメディアだ。” ”会社が株主のほうを向くということは、富裕層に気に入られるビジネスをするということだ。エンドユーザーである庶民に気に入られることは二の次になる。それは会社の社会的責任を損なうことにほかならない。‥‥‥‥株主や株式市場ばかり見ている会社は、世間受けのいい研究はするけれども、地味で成果の見えにくい研究には手を出さなくなる。短期的な採算が重視され、不採算部門は次々にカットされる。‥‥” ”人間には、自分の選択が「良いはずだ」「間違っていない」と思いたいという心の働きがある。そして、自分の選択が間違っていないことの証拠を集めようとする。こういうメカニスムが無意識のうちに働くからこそ、人間は意図的に自分の考えと違う理屈や、心地よくない情報にも冷静に向かい合ったほうがいいのだ。自分の主義主張とは逆張りするトレーニングを積んでおかなければならない。 さまざまな嘘を見抜くためにも逆張りの思考は大切なのだが、その手助けとなるニュース報道が日本の場合、心もとない。日本のテレビニュースはどこの放送局も主張がほとんど同じだ。‥‥‥‥原因としては、視聴率主義の中で異端になることを現場サイドが恐れているということもあるだろう。本当だったら新聞であれテレビであれ独自のカラーがあっていい。マスコミが、よそがこう言っているからうちもこうしようという姿勢では、ほんのわずかなさじ加減で世論がひどく変わってしまう危険がある。” 本書の中には著者の強引な仮説も見受けられるが、大方、正論的な筋が通っていると感じられる。 『メディアリテラシー』の能力を一人ひとりが高めて、一人ひとりが自分の頭で考え、行動する世の中でないと、一部の人の都合と集団無責任的な風潮により、社会が危うい方向に進んでしまうのでは‥‥。それが一番危惧されることである。