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2004年12月22日
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     世界は こんなにも美しくて
     だけどなぜか涙がとまらない
     傷つけたくなんてなくて
     だけど僕の心は とどかない
     こんな気持ちを抱いたまま
     何処に行けばいいんだろう
     出来ることなら
     この静かな海のなかに
     溶けてしまいたい

     
 
       第一章


土煙をあげながら一台の車が走ってきた。
突如ブレーキをかけ車が止まりドアが開く。
男と女は 使い込まれたオンボロの車から降り
運転手に礼を言った。
「アルフォ ありがとうおかげで助かったよ。」 
男は アルフォと呼んだ運転手と固い握手を交わし
茶色い革製のカバンを受け取る。
女の方は 少しばかりイラついているのか
男をせかし
「行きましょ!」と一言。 
車は クラクションを鳴らしながら
又土煙を上げ走り去った。


「ねぇ あの人ったらホント馬鹿みたい!ずっと漁のこと
しか話さないのよ!」流暢な英語が堰を切り爆発する。
女の名は ネル・コネリー。 
ネル・コネリーは 旅行ガイドの仕事をしている。
数日前 紀原レイという日本人のガイドを会社から頼まれた。
「彼は 日本語と英語が話せる。君なら出来ると思うんだ。」
上司曰く。。 

ネルの父親は アメリカ人 証券取り引きの仕事をしていた。
母親は イタリア人でレストランを経営。
子供時代は なに不自由せず育ち
たった今まで あんなにボロい車に乗ったこともなかったのだ。 

「ねぇレイ!今度は あの人の車を拾わないでね!」
そう ネルと一緒に車を降りた男は 紀原レイ 。。
「ねぇネル!あの人はとてもいい人じゃないか!それにここまで来れた!」
レイが答える。
「あーそうですねぇ!魚料理でも二人でしたら!」
ネルが言い返した。
アルフォとレイの会話を通訳し続けネルは 疲れと呆れとで車を降りたとたん
ヒステリックを起こしていた。
「で!今度は 誰とお話しすればいい?魚?」

「いいや海さ。。」
レイが答える。
「なに?いまなんて。。」
そう言いながらネルが振り向く。
そのとたん驚いて固まってしまった。
「あっ..すごい...」
 
二人の前には 言葉に表せない程の絶景が広がっていた。。
この色彩を描ききれる人がこの世界に果たしているのだろうか?
美しい..
太陽の光がこの色彩を産み出す。
海は 不思議だ。。
レイは 心のなかで呟いた。

紀原レイの仕事は マリーンスポーツ雑誌の編集。
『世界で最も美しく泳ぐ人』そんな話を酒の席で友人のダイバー
から聴いたのは 3ヶ月前の事だった。

「ほんとに美しいんだよ。信じられないかもしれないけど
あんな泳ぎ方をする人間を初めて観た。。海と一体となっているんだ。。
本当に人だったかどうかも分からない。。」
レイの友人は タヒチでダイブ中に青年に出会った。
名前を聞きそびれたそうだがイタリアの島に住んでいるとか。

その時は 友人も酔っていたせいか聞き流していたが..
つい3週間前 別の友人が同じような話をしたのだ。
『夜の海に座る青年』がいる。。それは 人では無いように思えたと。。

レイは その瞬間”青年に会わなければいけない”。
なぜかそう確信したのだ。
そして5日前日本を発ち遥々イタリアに足をのばしたのだ。
もちろん取材のためだったが 会えるかどうかわからない若者を訪ねる。。 
そのことがレイには なぜか可笑しく思えた。
”なぜだろう?”
思い出すのは 二人の友人が熱っぽく語るときの表情ばかり。

”俺も熱をうつされたみたいだな”
心のなかでレイは 呟いた。


ネルは 風景に見入っていた。
車の中では 通訳に忙しく外の風景どころでは なかった。
漁師と雑誌編集者の間を受け持つのは 楽ではなかったが この水平線と
海の色彩がネルをリラックスさせた。
「丸いのね..地球って 久しぶりに思い出したわ。」
ネルが言う。。


「そう?あの先は 行き止まりだよ。」
レイがスーツについた土埃を払いながらジョークを言うとネルが眉間にしわを寄せ
「ミスター紀原!イギリス人顔負けのブラックジョークをありがとう!
私の父にそっくり!もう!私の周りは こんな人ばっかりなんだから!もう行きましょ!彼は どこにいるの?いい男なんでしょうね?」 
ネルは 左肩に引っ掛けていたショルダーを怒りながら両肩に背負い直し歩き出した。
「ミス・ネル・コネリー!」
レイが地図を見ながら叫ぶ。

「なに?行き止まりの看板でもあったの?」
ネルも叫ぶ。

「方向は こっちみたいだ。戻ってミス・ネル!」
レイが再び叫ぶ。

ほおをふくらまし ため息をついてネルが答える。
「ミス・ネル・コネリー戻るわ!イエッサー!」

レイは 笑いながら彼女を観ていた。
怒ったときの顔がキュートで
白い肌が紅潮し怒るとすぐわかる。
だが彼女に冗談は もう言わない方がいいな。。
もしかしたら父親にコンプレックスがあるのかもしれない。
レイは そう感じていた。



著作権は Kaizuに既存します。






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最終更新日  2004年12月25日 05時20分53秒
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