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テーマ:三国志(505)
カテゴリ:ゲテモノ
試写会で見て、びっくりした。 私の意見は題名の通り。 中国の軍人も、あの映画を見たら激怒するだろうし。 正史・三国志を知っている人も、NHK人形劇三国志で演義を読んだ人も、蒼天航路のファンも 「何だ、これ違うじゃないか」とあきれるだろう。 ストーリーの大筋は合っている。 確かに曹操は華北を統一した後、荊州(現在の武漢)を攻略し、劉備を追い出した。 しかし、最初から前提が間違っている。 映画では曹操が皇帝の前に進み出て、脅迫したり恫喝するシーンが出てきて、「曹操はこんな男だ」という役作りをしているが。 正史では許に遷都して以来、曹操は皇帝に謁見していないのである。 それは曹操の昔の上司でもあった老臣の楊彪らが、曹操の無礼をなじったこと、 それから戦時下の大臣が皇帝の前に進み出るときに、近衛兵が両脇から戟(大きな薙刀)の刃を押し当てて前に出る古い制度が復活されたから。 それで「それ以後は曹操は機嫌が悪くなり、以後の謁見をすべて辞退した」ということになっている。 ほかの歴史記述を見ても、その通りだったと考えられる。 そのかわりに腹心のジュンイクを皇帝の秘書長官である尚書令にして、任官や詔勅などはすべて思い通りにしていた。 だから、曹操はジュンイクと頻繁に文通していたというわけ。 大臣(司空・丞相)なのに皇帝に謁見しないで政治をコントロールしたというのは、江戸時代の将軍家のようなもので、実に驚くべき複雑な統治システムであったが。 これは専門の立場の意見だが。 みんながビックリするのは、曹操が周愈の妻、小喬に横恋慕して、呉地方の征服を急いだというモチーフである。 しかも、小喬は、曹操の昔の上司だった大尉・橋玄の遺児になっている。 これはありえない話である。 『三国志演義』では、諸葛孔明が孫権や周愈を激怒させる説得材料として、小喬の姉、大喬(孫権の義姉・孫権の実兄孫策の未亡人)を人質にとるだろうという話が出ている。 これはあまり正史には出てこないが、確かに曹操は打倒した敵軍の指導者の未亡人たちに優しかったので、こんなデマや噂が当時、乱れ飛んだとしてもありえない話ではない。 夫が戦死した未亡人に手厚く世話をするというのは、曹操のいいところであったが、後に息子の曹ヒが誤解して、敗軍の未亡人を強引に妻にして、その後に自殺させたりしたものだから、もちろん誤解が大きくなる。 曹ヒが袁紹の息子・袁尚の妻を捕虜にして、袁尚が生きているのに性関係を結んでしまったのは、確かに大きなスキャンダルであった。 曹操は息子の不始末に激怒したが、その女性を正妻とすることで事をおさめようとした。 すると曹操に批判的だった孔融は、「周の武王は殷を打倒して、殷の女王を息子の成王に与えた」と風刺した。これは史実である。 だから、曹ヒの子・明帝(卑弥呼に金印を下賜した皇帝)はその出生の問題に悩み、後継者問題が複雑化して、曹操の血統は絶えてしまったのである。それは後の話で。 実際に呉が降伏したら、孫権の血縁親族から人質を出さなければならないのだから、未亡人の大喬はある意味で適任である。 おそらく曹操もそうしたであろう。 何だかんだ劉備も孫権の妹を夫人にしているからな。 ただし、小喬が橋玄の娘で、曹操が少女時代の小喬に出会っていて、女の略奪のために赤壁の戦いが起きたという設定になっているのは、無理というよりも歴史に対する冒涜であると思う。 これは映画で見た印象だが、呉監督は『トロイ』のハンス・ピーターゼン監督のパクリをやりたいと思ったのではないか。 『トロイ』は確かに「女の略奪」が主題になっている。 そのほかにも、呉監督の戦闘シーン、特に曹操軍を包囲殲滅する「八卦陣」というところであるが、『トロイ』でアキレスが使った亀甲陣がそのままパクられている。 しかも、それを簡単に打ち破ってみせるあたり、呉監督のハリウッド・コンプレックスがそのまま出ているのではないか。 「八卦陣」というのも実際の戦闘では使用できない架空の陣形で、 しかも敵軍を誘い込んで殲滅する戦術は、黒澤映画の『七人の侍』からのパクリなのである。 これらは実に見ていて不快であり、不愉快に思う。軍人から批判が出るはずだ。 当時は鍛造の鉄剣が開発されたばかりであったが、ほとんどの兵士が持っていた武器は青銅製であった。これは何人も人間を切ることができない。金属の性質として、血が付着すると刃物は切れ味が悪くなるのだ。 ジュリアス・シーザーがウェルキンゲトリクスを包囲して、ガリアの反乱軍を迎え撃ったとき、わざと関門の地形をつくって、敵兵が少しずつ突撃するような配置をした。 そこでローマ軍は敵兵をどんどん殺傷したわけだが、シーザーはそのあたりをちゃんと配慮していて、あちこちに武器のスペアを用意して、友軍に使わせたと『ガリア戦記』に記述がある。 『七人の侍』は地面に何本も刀を抜き身で突き刺して、刀を取り替えて、敵を切りつづけるシーンがある。 この映画ではカンフー・アクションを採用して、英雄たちが敵兵から武器を奪い取って、敵兵を切りつづけるということになっている。 これは少林サッカーみたいなもので。ヘッヘッヘッと笑うしかない。 というわけで結論。 ジョン・ウー監督の【レッド・クリフ】は インチキ嘘っぱち映画であり、中国史を破壊する駄作である。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.11.04 10:23:45
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