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カテゴリ:アメリカ・カナダ
オレが最近関心を持っていることの1つはカナダの先住民である。 アメリカでは「インディアン」と呼ばれ移民してくる白人たちに何世紀にも渡って虐殺され続け、生き残った数少ない先住民たちは不毛の土地に追いやられて、観光などを収入源としてひっそりと暮らしている。 一方カナダでは先住民族は「First Nations(最初の国家)」と呼ばれて尊重され、アメリカのように虐殺されることも追いやられることもなくカナダという国家と共存してきた。 たとえばアメリカでは3億人の国民のうち「ネイティブ・アメリカン」と呼ばれる先住民はアラスカのイヌイットや都市部で暮らす者なんかも含めて250万人いるそうだ。これは総人口の0.8%に過ぎない。これは他民族国家の中ではいちばん小さなマイノリティ民族である。 一方カナダの総人口は3000万人ちょっとだが、イヌイットや都市部に暮らす者を除いても先住民は70万人、2.5%を占めている。カナダでは、アメリカに比べると少なくとも3倍の密度で先住民が暮らしていることになる。 オレがカナダの先住民の何に関心を持ったかというと、簡単に言えば、アメリカのネイティブ・アメリカンたちと違って、昔ながらの生活をしている点だ。 アリゾナやユタの砂漠では“昔ながらの生活スタイル”を維持するネイティブ・アメリカンを見掛けるが、彼らはもともと肥沃な土地で豊かな生活をしていたのが白人に追いやられて仕方なく砂漠で生活しているのであって(笑)、「インディアン保護地」とされる不毛の地での彼らの生活は全然彼らの「昔ながらの生活」ではない。 一方でカナダの先住民は、川や湖のそばにある先祖代々伝わる土地で、連邦政府から独立した自治社会を作って自給自足に近い生活をしている。コロンブスがアメリカ大陸をインドと勘違いしたことから先住民が「インディアン」と呼ばれ迫害されてきたアメリカとは違って、カナダの先住民がファースト・ネーションすなわち「最初から居た人たち」として、後から来たヨーロッパ移民たちから尊重されてきたことがよく判る。 オレがこのカナダ先住民に関心を持ったのは最近のことだ。 カナダでいちばん有名な日系人にデビッド・スズキという生物科学者が居て、カナダの自然科学TV番組によく顔を出している。この人は熱心な自然保護運動家でもあり、日本にも訪れている。父の影響を受けて成長した娘のうちの1人もかつて子供向けの自然科学番組のパーソナリティを務めていた。オレは2005年に前の仕事で参加した国連気候変動条約会議のモントリオール市内の会場で彼女を見たことがあるが、父親に似ずとてもカワイかった(笑)。 ...で、このカワイイ娘なのだが、最近見たデビッド・スズキのテレビ番組に久々にちょっとだけ登場したのを見て、すごく驚いた。彼女が今何をしていたかというと、カナダ先住民と結婚・出産し、先住民保護区の孤島の先住民社会で生活していたのである(笑)。 有名な自然科学者の父と記者・文筆家の母というインテリの父母の間に生まれ、やがてアメリカのイェール大学に進み生物学か何かを専攻していた彼女のことだから、オレはてっきり研究者か何かとして生活しているものと勝手に想像していた。ところがどっこい、有名大学の学位を捨てたどころか、すっかり文明生活に背を向け、先住民生活をしていたのである。 オレはこの事実を知って、デビッド・スズキの自然に対するコミットメントはメディア向けの欺瞞ではなくホンモノだったのだと確信した。口だけで自然保護を唱えている科学者であったら、愛する娘が先住民と結婚して先住民族社会で暮らすという選択は取りえなかったと思うからだ。実際、デビッド・スズキは娘が産まれて間もなく、ファースト・ネイションの先住民に預けたことがあったとこの番組で言っていた。 まあ、日本でもフクシマ原発事故による汚染問題なんかをきっかけに、原子力だの科学文明に対していちど立ち止まって再考するような態度が広がりつつあるような気がする。オレもカナダに住んで科学技術だの産業社会だの自然との共存なんていうことをボンヤリと考えつつ、なんとなく文明と自然のうまいバランスを探り出す上でのヒントがこの国にありそうな気がしていた。しかし、今回のデビッド・スズキの娘の件を知るにつけ、そのヒントを探る上で自然の中で豊かな生活しているカナダ先住民のことは避けて通れないという気がしてきたのである。 そんなわけで、この夏はオンタリオ州内にある先住民保護区に行ってみようと画策を始めたところであるが、どうなるかは未定。 余談:1992年、気候変動枠組条約のさきがけとなった国連リオ会議の会場で子供を代表してスピーチをし、会場を完全に沈黙させた12歳の娘がいたが、この子がこのデビッド・スズキの娘である。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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