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カテゴリ:たわごと・仕事・愚痴
日本の典型的なワンルームマンションのような狭いホテルの一室。気だるい気分で夜を迎えようとしている。
もう午後9時か10時くらいである。もうあとは寝るだけかと思っていたが、部屋には夕日の紅い光線が差し込んでいる。夏至に近いからだろうか、日没もこんな時刻なのだ。せっかくなので、日の入りでも見るかと思い、適当にスナック類を持って外に出る。 建物の外は岩に囲まれた荒涼とした風景。そう、ここは山の上であった。山の服装をした多くの男女が行き交っている。彼らも日の入りを見ようとしているのだろう。日が沈む前にできるだけ西の端に近いところで見ようと、早足で少し移動することにした。 途中でポケットからタバコを出し、火をつける。両手に物を持っているので咥え煙草の状態だ。灰が服の上に落ちないか心配しながら先を急ぐ。すると、前方から見覚えのある女2人が歩いて来る。日本の大学時代の同級生のY永とY田だ。タバコを吸っている姿を見られてしまった。オレはタバコを口に咥えたまま、「もうトライアスロンは止めたから、いいんだもんね。」みたいな言い訳みたいなことをモゴモゴと口にして、彼女たちとすれ違った。 西端の崖の上には比較的新しそうなガラス張りの建物が立っている。おそらく展望用の建物なのだろう。中には登山客が何人か集まっている。早足で中に入ると、西端のいちばん崖に近い場所に、ちょうど教会の祭壇の前にあるようなベンチがある。椅子にするには高く、テーブルにするには低過ぎる高さだ。そうか、きっとこのベンチの前に跪き、両手を組んだ肘を載せて、夕日に祈りを捧げるために置かれているのだろう。オレは、ちょっと周りを気にして照れながら跪くと、両手を組んで、沈み行く夕日に向かって祈る格好をした。 どこからともなく、「♪遠き山に日は落ちて…」の音楽が流れ始める。 見ると、崖の向こうに夕日は見当たらず、紅い夕焼けに染まった眼下の風景に、富士山のような形をした左右対称の雄大な山影が浮かび上がっている。ということは、この影は自分たちのいる山で、オレたちは実は東端にいて、太陽はオレたちの後方から差していることになるのだが、夢の中なのでオレはあまりその矛盾を気にすることなく、雄大な日没の光景に圧倒されながら、何を祈るともなくただ感動に浸っている。そうしているうちに、なんとなく「明日も頑張るぞ!」といった気分になってきて(笑)、オレはその場で伸びをしたり走る前のストレッチを始めてしまう。 すると、何時の間にか灯りの灯された部屋の中に、15年近く前に働いていた職場の上司であったIさんが入ってきて、祭壇のようなベンチの横に立ち、オレの顔を見て訳知り顔の笑顔で軽く会釈した。ビジネススーツとはちょっと雰囲気の違う黒いスーツを着ている。やはりこの建物は教会か何かを兼ねており、これから礼拝のようなものが始まるようだ。Iさんはその司会をするらしい。何かよく分からないがオレもこの集まりに参加することになっているのか。「♪遠き山に日は落ちて…」の音楽は、部屋全体なのかオレの脳内だけなのか、相変わらず流れ続けているが、オレはすっかり日没の感動から覚めてしまう。 …と思ったら目が覚めた。まだ午後4時過ぎだ。トライアスリートチームの練習会から帰ってきて、昼飯を食いながらネットサーフィンをしているうちにだんだん眠くなり、シャワーも浴びずにベッドに横になったらすっかり熟睡してしまったらしい。午後の半日をすっかり無駄にしてしまった。たかが10kmやそこら走っただけでこんなに疲れるなんて、練習量が急激に少なくなったとはいえ、オレの体力も落ちたものだ。「♪遠き山に日は落ちて…」が、オレの脳内に未だに響き続けている。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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