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カテゴリ:マラソン/山/トライアスロン
日本の友人から、YouTubeへのリンクが貼られたEメールが送られてきた。
先日、イモトとかいうお笑いタレントがアコンカグア登頂に挑戦する企画を「世界の果てイッテQ」とかいう番組でやっていたらしいのだが、そのリンク先はその番組の終盤を録画したものであった。 Facebook仲間の書き込みで、このタレントがアコンカグアに挑戦するらしいという話は聞いていたが、その後どのような結果になったのかは知らなかった。ただ、その書き込みを読んだとき、「オレが2度も挑戦して敗退したアコンカグアに、芸人ふぜいに一発で登頂されたら悔しいな」とだけ思っていた。 このYouTube動画を見れば、その結果が判るわけだ。友人のメールによれば、このタレントが頂上にアタックしたのは、オレが頂上を目指したほぼ1ヵ月後の、1月8日だったという。 オレは昨年12月にアコンカグアから下山して以降、日本への一時帰国準備や結婚の段取りやらに忙殺されることで、アコンカグアのことを思い出さないようにしていた。 しかし、このYouTube動画を再生し、そのタレントが頂上まであと数百メートルのあのグランカナレッタを登る姿を見た瞬間、あの時の悔しさが急激に蘇ってきた。 オレは、カナレッタの急坂に息を切らすこのタレントに感情移入し始める前に、「この連中はこのまま登頂してしまうのか」「登頂したとしたら、悔しいのう」とか考え始めている自分、すなわち負け犬の心理でこの動画を見ている自分に気づき、少しだけ自己嫌悪した(笑)。 あの見慣れた急斜面。左前方の頂上がすぐそこに見える。オレがアタックした12月上旬はまばらにしか残っていなかった雪が、どうやらその後の降雪でかなりの深さになっていたようだ。いずれにしても、ステップを踏むごとに崩れていくあのガレよりも、この程度の雪の方が登りやすいだろう...などと、いざという時の自分に対する言い訳のようなことを考える(笑)。 中央左上が頂上。右下の米粒みたいのがオレのチームメート しかし、雪はところによって思いのほか深く、このタレント隊は雪崩の危険を避けるため、オレが辿った頂上直下のルートではなく、いきなりサウス・サミットに近い尾根に向かって登り始めた。サウスサミットそばの尾根は6890m。オレがリーダーから下山を命じられたのとほぼ同じ高度である。しかし、この尾根からは視界をさえぎるものがないので、オレが見れなかった、あの有名なアコンカグア南壁が見えている。...嫉妬心が頭をもたげた。 番組はここで急転する。アンデス特有の吹雪、ビエントブランコの予兆となる風が吹き始めたのだ。番組の終盤しか見ていないのでこのタレント一行が何時頃にこの地点に到達したのか知らないが、オレが頂上にアタックした時期は、ビエントブランコを避けるために午後1~2時くらいまでに登頂しなければならなかった。この一行もやはりこの時点で「タイムオーバー」となったらしい。頂上まであと80m足らずのこの地点で、ガイドのオッサンが撤退を決断したようであった。...ここまで見てようやく安堵する自分の心の貧しさを、オレはちょっとだけ恥じた。 「ここを「イッテQ」の頂上としよう。」とガイドのオッサンがタレント一行に宣言するのを聞いた時、リーダーの下山命令に「頼む、登らせてくれ」と懇願する自分に対しサブリーダーが叫んだ「This is your summit!」という言葉を思い出したオレは、ふざけた太い眉をマジックで描いたこのお笑いタレントに心底同情した。そして、ガイドのオッサンが言った「恨まれてもいいから、ここで帰る」というセリフに、「頼む、登らせてくれ!」と叫んだオレの懇願にしばらく沈黙していた時のリーダーたちの気持ちを思った。 無念の下山の途中でこのお笑いタレントが泣いている姿は、あの時の悔しさを急激に思い出したオレには、とても見ていられなかった。ただ、彼女の1ヵ月前に「残り2名、登頂成功」の無線連絡を聞いてオレがむせび泣いたカナレッタの入り口の休憩地点で、ガイドに感謝の言葉をかけながら泣く動画のイモトに、オレなんかと違って苦労している芸人はエライよな...と思った。 このYouTube動画のおかげで、記憶から抑圧していた2ヶ月半前の悔しさに再度直面させられたが(笑)、一方で、解けなかった心の奥底のわだかまりが何となくちょっとだけほぐれたような気がして、見てよかったと思った。 ところで、この番組では「6890m、頂上まであと200mで断念」と繰り返し言っているが、アコンカグアは標高6965mなので、ホントは頂上まで80m足らずである。ギリギリで敗退を余儀なくされたオレとイモトのささやかな名誉のためにも、この点に関しては番組内でキチンと訂正しておいて欲しいと思うぞ、オレは。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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