アコンカグア帰還インタビュー(最終回)
聞き手 今回は登頂日以外は高山病の症状が出なかったとのことでしたが、キリマンジャロで経験されたような身体へのダメージは結局何もなしですか。郡山ハルジ まあそうですね、日焼けや皮膚の硬化・乾燥といった些細なものを除くとほとんど何もなかったです。靴擦れやマメさえなかった。聞き手 お金を掛けて揃えた本格的な装備が有効だったんでしょうか。郡山 凍傷や靴擦れなんかに関してはそうですね。高山病に関しては、高度順化のために「登ったり、降りたり」を繰り返したのが効果的だったと思います。 聞き手 出発前のブログ記事にあった上の図ですね。郡山 はい。英語では「Climb high, sleep low」と言いますが、昼間のうちに標高の高いところに登り、寝る時は標高の低いところに戻って来て寝ると、寝ている間にホメオスタシスが働いて赤血球が増加し酸素供給効率がよくなります。聞き手 今回はオキシパルスメーターを持参されましたが、実際に計測した酸素飽和度はいかがでしたか。郡山 登頂日の数日前までマメに毎日数回ずつ計測してましたが、ベースキャンプ(4300m)とニド・デ・コンドレス(5300m)に到着した日に80%を若干切った以外、ほとんど85~90%でしたね。聞き手 たしか(メディカル・チェックで)ドクターから下山宣告を下される基準が70%未満、上のキャンプへの移動を許可される基準が80%以上でしたね。郡山 そうです。聞き手 ほとんど85~90%というのはかなり好調じゃないんですか。郡山 はい。心拍数もハイキャンプでさえ毎分80回に至りませんでした。これで、ローシーズンにしては天候も安定してたわけですから、日を追うごとに登頂への自信を深めていったのも無理ないです。聞き手 それを考えると登頂を逃したのは本当に残念でした。 ドクターが常駐するメディカル・チェック小屋 聞き手 アコンカグアには再挑戦される予定ですか。郡山 はい。来シーズンになるか2~3年後になるか分かりませんが、近い将来に戻って決着をつけたいと思ってます。聞き手 「決着」ですか(笑)。じゃあ、また単独で?郡山 ...いや、単独はもう懲りました(笑)。次回の挑戦までによほど登山技術や体力に自信がついていれば別ですけど。聞き手 ...となると、40万円くらい出してツアー登山に加わるか、パートナーを探して登るか...。郡山 そうですね、予算などの制約を考慮すると後者でしょうか。実は、南米からカナダに戻ってくる飛行機の中で『127 Hours』を見ちゃいましてね。聞き手 それもすごい偶然ですね。山から下りてきて、故郷の大震災のニュースを地球の裏側で見た次は、帰路の機内映画で『127 Hours』ですか(笑)。郡山 岩に挟まった自分の腕を切ってユタの谷底から生還したAron Ralstonの体験記を元にしたあの映画ですけど、単独で冒険を繰り返してきた末に、誰も居ない砂漠の谷底で岩に腕を挟まれて身動きを取れなくなった彼が、『この岩は、これまで(他者を視野にも入れずに)傲慢に単独でやってきた自分を、この谷底で、この瞬間までずっと待っていたのだ。』みたいなことをつぶやくシーンがあって...。ベルリン小屋であんな経験をしたばかりでしたから、すごく身につまされました(笑)。聞き手 まるでこの映画こそが、これまで単独でやってきた郡山さんを、この瞬間までずっと待っていたかのようですね(笑)。郡山 いや、ホントに(笑)。「他人と妥協したり、テントの中で小便や屁の音を聞かされても看過できるくらいの寛容さを身に付けてでも、次回は登山パートナーを見つけて来よう。」と思いました。聞き手 それは郡山さんにとっては結構ハードルの高い課題じゃありませんか(笑)。郡山 はい(失笑)。2011年は登山技術以外に、山で2週間以上も一緒にテント生活できるくらいの他者との妥協や協調性・社交性を身に着けることを目標に、心身のトレーニングに取り組もうと思います(笑)。聞き手 早速次の目標が出来てよかったですね(笑)。心身ともにさらにパワーアップされて、近い将来に登頂に成功されることをお祈りしています。(おわり)