I'm not fine, thank you!
みなさん、中学生になってはじめて英語という科目を学習することになって間もなく、英語の先生から「英語でのあいさつ」を学びませんでしたか。ぼくの中学1年次の英語の先生は竹○先生でしたが、先生はぼくらに「"How are you?"と聞かれたら、"I’m fine, thank you."と答えるのです。」と教え、それ以来毎日の授業のはじめに必ず「Good morning/afternoon, everyone. How are you?」と尋ねて、われわれ生徒たちに「Good morning/afternoon, Mr. TakeXX. I’m fine, thank you.」と合唱させるように返事をさせました。ぼくは、竹○先生からはじめて英語の授業を受けてから9年後、イギリスに滞在しアメリカに住むようになって、こんなあいさつをするバカはアメリカにもイギリスにもいないことをすぐに知りました。もちろん、アメリカ人もイギリス人も”How are you?”というあいさつはします(アメリカ人の場合は”How are you doing?”や”How’s it going?”とかのほうがポピュラーですが)。しかし、よくよく考えてみたら、このあいさつは「ご機嫌はいかがですか?」と質問してるわけですから、それに対する回答は、そのときの機嫌によってぜんぜん違うわけです。よくある返事は、”Pretty Good. (結構いいです)”や”I’m doing great.(好調です)”とかで、好調でなければ”OK.”とか”Not too bad. (悪くはないよ)”となるでしょうか。”I’m fine, thank you. And you?”なんて返事をする人はいままで会った数千人の英語圏のネイティブ中、1人か2人くらいだったと思います(その人は、日本でモルモン教を宣教しながら英語を教えていたような人だったと思います)。実は、竹○先生から英語の授業を受けていた当時から、私はこのことを疑問に思っていました。「ご機嫌いかが?」の質問への答えがどうしていつも「気分は良好です」なのか。しかし、中学1年生の私は、良好でない気分を表すためのボキャブラリーを持ち合わせていなかったので、竹○先生の指導に対する自分の異議を示すにもせいぜい「I’m NOT fine, thank you.」程度の返事しかできませんでした。竹○先生自身は、「How are you?」というれっきとした疑問文に対する返答が紋切りの「I’m fine.」になることに、英語を教える立場にありながら疑念を抱かなかったのでしょうか。「How are you?」に対する回答は、問いかけをした相手の状況に応じてありとあらゆる”How”(どんな)が可能ではありませんか。だいたい、つねに「Fine」な毎日快晴のような人間なんて、イッちまっている人以外にちょっといないと思います。アメリカにかつて5-6年住み、カナダに移住して3年経ったワタシのばあい、”How are you?”とか”How’s it going?”とか聞かれると、一度自分がどんな気分か考えた上で、”Good.”とか”Not bad.”とか、”Terrible!(ひどい気分だ)”とか、”Can’t find a word to express it. (何と表現していいか分からない気分だ)”とか、”In what sense? (それは具体的に私の何の調子に関する質問だ?)”とか、”You don’t really care how I am. (私の機嫌になんて何の関心もないクセに。)”とか、無数の回答のバリエーションであいさつを返しています。それに対し彼/彼女らも"I'm fine, too, thank you!"などと返答するバカはおらず、"I'm just trying to be sociable.(社交辞令として聞いてるだけだよーん)"とか、"I don't really want to know.(ほんとは別に知りたくはないよ)"とか率直に回答してくれます。これこそ無味乾燥な形式だけの発話ではなく、真率でストレートな人間同士のコミュニケーションというものではないでしょうか。これを読んでいる皆さんも、"How are you?"と異国人に聞かれたら、自分の気持ちを率直に表現しましょう。"How are you?"の答えが"Fine."だなんていう英語の先生の教えは大ウソですから。あるいは、『ハウアーユー?』がうまく発音できずに『フー・アー・ユー?』と訊いてしまった日本人に対しウィットをきかせて『I'm Hillary's Husband.』と答えたクリントン大統領(当時)が『I'm fine, thank you. And you?』と定型の返事をしたと思い込んで、『ミー・トゥー!』と思いっ切り返答してしまった森元首相にならい、精一杯バカを貫き通すのもある意味ステキですけどね。