買って聴いて考え、買って見て泣く
トロントに行ってきた。米領事館にビザ関係の用事があったからである。自宅からは片道400キロ弱(所要4時間)、1日で往復800キロ弱をドライブするのはちょっとツラかった。オイラはトロントはけっこう好きだ。人口300万という適度な大きさの都会で、清潔で整然としている(チャイナタウン周辺は例外だけどね)。バンクーバーには適わないがオンタリオ湖岸はなかなか風光明媚だし、治安も良さそう。女性がキレイなのもいい。オイラの住んでいる街はカジノと自動車関連の製造業以外にはこれといった文化も産業もないところだし、対岸のデトロイトも街自体が比較的大きくても華やかなところに欠けた殺風景な街なので、たまにトロントに出てくると心に潤いを感じるんだなあ。領事館の用事が早々と終わったので、めずらしく買い物をして帰ってきた。ちなみにオイラが食品や日用雑貨以外の買い物をするのは、マラソン関連用品と親類縁者へのプレゼント/おみやげの購入を別にすれば、額にしてせいぜい年間3万円程度だと思う。中学時代と同じ程度のお小遣いで生活できる珍しい中年。帰路の自動車の中で、「CD2つで25カナダドル(2000円くらい)」セールをやっていたHMVで買った InterpolとCureの新譜を聴いた。いずれのバンドも楽天広場仲間のpinkoysterさん経由の影響である。Interpol は、’80年代前半にパンク以降の雨後のタケノコみたいに突然発生しては静かに消えていった「ゴスがかった実験的なニューウェーブバンド」の音にそっくりだった。ボーカルはまさに往年のジョイ・ディビジョンのイアン・カーティスを髣髴とさせる。アメリカのバンドだけど、アメリカ国内ではこんなダウンビートなバンドは流行らないだろうなあ(笑)。…え、メンバーのうち2人はイギリス生まれなの?なるほどなあ。本来“ベース(基礎)”となるべきベースがやりたい放題に“メロディ”を奏でているのと、津軽三味線のような味わいの単純な“刻みギター”との絡みのテキトウさがこのバンドの持ち味。4ピース(前にタムが1つしかないヤツ)・ドラムのリズムは単調になりがちだがアクロバティックでなかなかユニーク。この作曲の基礎を無視した各パートの微妙な絡みから判断して、メンバーの誰かが作った曲をみんなで練習して演奏しているというより、きっとメンバー全員で限りなく“即興”に近い曲作りをしているハズだ。ただ、なんだかメンバー自身が飽きてそのうち解散しそうなバンドだと思った。キュアの新譜については以前の日記にも書いたが、とても45歳のオッサンが作ったとは思えないティーン・スピリットの臭う粗荒しくて暗ぁーい曲がてんこ盛り。たぶん20代の生きのイイ若いドラマーを入れたのだろうが、この新譜のデキの良さはドラマーのセンスの良さと体力に負うところが大きいよなあ。あと、このアルバムに入っている暗ぁーい曲は、実はずっと昔につくったのに、過去15年間のポップなアルバムには入れてもらえなかったかつてのボツ曲じゃないかと思うぞ。あと、オイラのお気に入りの映画である「Fearless(邦題:フィアレス-恐怖の向こう側) 」のDVDがたったの10ドルで売ってたので、棚から救ってあげるような気持ちで購入した。これまでにもビデオで4回くらい見ている(注.執着心の乏しいオイラとしてはこれはマレなことである)が、またしても家に帰るなり見て、ひとりで泣いてしまった。映画を見て泣いたのは、小学生のときにテレビで「禁じられた遊び」を見て、ラストシーンで泣いて以来である。この映画はひとことで言えば、飛行機事故で奇跡的に一命を取り留めた男の心理を描いたシリアスなドラマで、「お涙頂戴モノ」でも「感動ストーリー」でもないのだが、これを見ると毎回のように涙が出そうになる(注.過去20年以上泣いたことのないオイラとしては、これは非常にマレなことである)。「悲しい映画」でも「感動の名作」でもないのになぜ泣きたくなるのか、これがうまく説明できない。泣きたくなる場面はいつも、墜落している飛行機の中の回想シーンなのだが、乗客がパニックになったり、必死に祈ったり、隣の乗客と手をつないだり、遺言を録音している中で主人公がとても穏やかな顔で、”This is it. This is the end of my life. Let it go. I can let it go.”と(心の中で)言って完全にこの世への執着を放棄し、ほかの乗客に笑顔で声をかけたりするシーンを見ていると、「火垂の墓」を見てさえ泣かず日ごろ知人から鬼畜扱いされているオイラの心に深い哀しみが湧き起こるのである。布団に入ってからは、書店で3割引で売っていたのを購入したハリポタの第5巻に着手した。第4巻では危機一髪のところを脱出して終わったので、つづきが読みたくて仕方がなかったのだ。…しかし、ハリポタが「3割引」で売られるようになるとは、たぶんブームが去ってさすがに売れ行きが落ちているんだろうなあ。第5巻は日本での評判もイマイチだったらしいし。…関係ないけど、きょう、往路のハイウェイで「108 ZEN」というプレートの自動車が走っているのを見た(注.カナダのナンバー・プレートは、ローマ字3~4個と数字3ケタの組み合わせで構成されている)。煩悩の数の「108」と「禅」というのは年末にふさわしい粋な組み合わせではないか。見ると、15年以上も前のモデルであった。物欲に惑わされるな、モノを大事にせよ、ということか(笑)。