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劇場通いの芝居のはなし

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2019.08.01
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カテゴリ:研究会発表
 稽古場から外へ出てゆかせましょう。観察の練習をさせます。電車に乗って、その車両にいるすべての人を観察します。それぞれが違う人ですから、外見も、していることも違います。髪型、眼鏡のあるなし、ひげのあるなし、服装、座り方など、見るものはいっぱいあります。それぞれの人の、どこが違っているかを観察します。結構、面白いことです。
 そしてその人がどんな人なのか、想像します。服装や持ち物が、ヒントになります。朝日新聞と競馬新聞を持っている人は当然違う生活様式をしています。単語帳を見ている学生と、漫画雑誌を見ている学生も違いますね。もっとも最近は、みんなスマホを見ています。
観察をちゃんとしていると、人間をパターンで演じることがばからしくなります。頭で考えていた演じ方では、一人一人の違いが出せないことに気が付くはずです。

 技術面の訓練です。腹式呼吸も滑舌も、それだけをやらせればたいていができます。一般の人でも腹式呼吸や早口言葉は言えるのですから、当たり前です。大切なのは、台詞を言う状況で、腹式呼吸ができているか、発音が明瞭になっているかです。
ですから呼吸訓練も、基礎ができてからは、言葉を発しながら練習するのが良いでしょう。台詞を言える息でなければ、どんなに長く保とうと、意味はありません。

 腹式呼吸がちゃんとできていて、声を出すポイント、つまりマスク共鳴をつけるのに最も適したところに声の「方向づけ」ができていれば、それだけで台詞は「何かある」ように聞こえます。ヴェテランの俳優が、初見でも台詞をそれらしくしゃべるのは、このためです。
 しゃべりの基本が出来ていない人は、音を粒立てることができずに、つなげて発音してしまいます。「そうだろう」をちゃんと5つの音が聞こえるようにしゃべらず、「そーだろー」と1つか2つの音のようにしゃべってしまう。そうすると音が曖昧になるだけでなく、力もぬけ、息の支えもなくなります。最後の音までしっかり発音することで、台詞の最後まで気持ちを保持出来るのです。それをしないから、気持ちがすぐに抜けてしまう。役の人物で存在することができません。それは日常のしゃべり方を舞台にもってきてしまっているからです。俳優の仕事は、虚構の舞台の上で「実在」を生きることです。映画はカメラという現実を切り取る道具を使いますから、そこで現実そのままをやっていても良いです。しかし舞台ではそれをするのは正しくありません。
 
 もう一つ、台詞や仕草を観客に向けてしっかり発信してゆくことを、身につけなければなりません。カメラやマイクを相手にするなら、何処に向けて行為をしようと、相手が寄ってきて受け止めてくれます。しかし舞台では、演技者は観客に向かって働きかけなければなりません。それができれば、映画では得られない、観客からの反応を受け取り、コミュニケーションが成立します。演劇はコミュニケーションの芸術です。自分がどう演じているかではなく、観客にどう受け止められているか。それを意識し、より良く受け止められるように努力を続けているのが優れた演技者です。それがいつも出来るようになっているのが、「名優」なのです。
 現代の若者はコミュニケーション能力が落ちていると言われます。相手に面と向かって話すことを苦手とする、自分の意志や感情を表すことを照れる、相手の気持ちを推し量ることをせずに自分の思いや意見を一方的に押しつける。メールやラインの文章に慣れた人たちの悪い所です。舞台はアナログです。演技者を目指したのなら、真摯に努力を続けて、名優を目指してください。
by 神澤和明





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Last updated  2019.08.01 09:00:10



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