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劇場通いの芝居のはなし

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2019.08.05
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カテゴリ:中也の詩
詩のレッスンをする時に、中原中也の『サーカス』をよく使います。大変に音が面白く、リズムが楽しい作品です。中也の詩はその意味内容よりも、「音」を楽しむ要素が大きいです。
『サーカス』という作品は小学生でも楽しめる作品です。詩の中では、冒頭の「幾時代かがありまして」というフレーズと、「ゆあーん、ゆよーん、ゆやゆよん」というフレーズが3回繰り返してでてきます。不注意な学生は、「ゆやーん、ゆよーん、ゆやゆよーん」と読んだりしますが、書かれた通りではないことに、気づきません。で、書かれた通りに読みなさいと、いつも注意をさせられます。

「幾時代かがありまして」は、第一連で続けて出て来ます。導入の役割です。
一方、「ゆあーん、ゆよーん、ゆやゆよん」は、2連目、3連目、4連目(最終連)の終わりに繰り返されて、それぞれの連の締めくくりをしています。 
この音が、空中ブランコが振れているさまを表しているのは、間違いないでしょう。
では、この描写が表しているブランコ、もしくはブランコ乗りの動きは、どんなものなのでしょうか。 

テクストの言葉を考える時、その言葉が無ければどうであるかとか、他の言葉がおかれていたらどうであるか、と考えます。そこにみえてくる違いから、作者がその言葉を使った理由がうかがえてきます。
今回も同じ事をしてみます。

「ゆあーん」という音が暗示する動きはどんなものでしょうか。ここでは、学生がよく間違える「ゆやーん」という音との違いを考えます。
「ゆあーん」の場合、"yu ah-n"、「ゆ」に含まれる口の開きが小さな「ウ」の母音から、すぐに「ア」という、口を大きく開ける母音に繋がって行きます。口の動きは滑らかで、引っかかる感じはありません。息が一つの流れの中で動きます。
「ゆやーん」だと、どうでしょう。"yu yah-n" ですから、「ウ」の母音のあと、「ア」の母音になる前に、半母音の "y" の音が入ってきます。「ユ」と「ヤ」がそれぞれに音としてたってきて、ぶつかる感じがします。「ゆあーん」の場合にある「流れ」が、軽くせきとめられてしまう感じです。
情景を思い描くなら、「ゆあーん」は、手から離れたブランコが、そのまま滑らかに向こう側に動いて行く。そんな絵面が見えてきます。サーカスのテントの高いところを、ゆったりとブランコが振れてゆく。伸びやかな動きです。
by 神澤和明





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Last updated  2019.08.05 09:00:08
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