今日も蒸し暑い一日でした。たまには仕事帰りに居酒屋で一杯飲みたいところですが(私はカウンターでの一人酒が好きなのです)、妻の監視が厳しいので思うようにいきませぬ。もっとも身体が相変わらずアルコールを欲していないので、当面は模範的な夫の仮面を被り続けていようと思います。
今宵のBGMはキース・ジャレットの「ケルン」にしました。世界最大のゴシック様式建造物で世界遺産にも登録された「ケルン大聖堂」で有名なかの地で、旧西ドイツ時代の1975年に繰り広げられた単独即興演奏の実況録音盤ですね。約66分の長時間、驚異的なテンションで疾走と解脱を繰り返すキースの魔術的なピアノ!やはりジャズ史における屈指の名盤として、称賛され続けてきただけあります。何度聴いても錆びつきそうな感性に刺激を与えてくれるなあ。お得意の鼻歌めいた唸り節が無ければ最高なんですがねえ。
もっとも、本盤については食わず嫌いの時期が長かったのでした。私の敬愛する音楽評論家・中村とうよう氏がキースの演奏スタイルを名著「大衆音楽の真実」で、それこそ糞味噌に貶していたのですね。曰く「思わせぶりな態度で大衆を煙に巻く、ロクでもない音楽」と。クラシック音楽をも徹底的に罵倒して憚らない人なので、氏に最も影響を受けていた二十代の頃の私の関心も、自ずとロックとジャズに偏ってしまいました。
今では自分の耳を頼りにどんな音楽も分け隔てなく聴くようになり、とうよう氏の功と罪を客観的に語れるようにはなりましたが、とにかく音楽を聴き始めの若人にとっては刺激的な評論家でした。そう言えば、ジャズに関しても寺島靖国氏の著作ばかり読んでいましたねえ。氏もビリー・ホリデイ、エラ・フィッツジェラルド、ジョン・コルトレーンを全く認めない変人ですが、その歯に衣着せぬ語り口には大いに魅せられたものです。
第一回目のブログでも書いた通り、クラシック批評の宇野功芳氏、中村氏、寺島氏が私にとっての音楽評論家三傑ですが、あいにく全員が相当のお年寄りになってしまいました。お元気な内に奇跡の三者鼎談を、何処かの出版社が企画してくれないかしら?と思ったところでケルン盤が終了したので、趣きが正反対のマイルス・デイヴィス「ライヴ・イヴル」に盤を交換してみました。若き日のキースのエレクトリック・ピアノがやや控え目ですが、ジョン・マクラフリンのギターが炸裂する傑作ですね。それでは、ここらでおやすみなさい。