最近は二十代後半の日々を回顧するように、専らジャズを主体に聴くようになりました。今夜は白人女性ジャズ歌手の最高峰、アニタ・オデイの絶頂期の名盤『アニタ・シングス・ザ・モスト』です(1957年録音)。クリス・コナー、ヘレン・メリル、ジューン・クリスティ、ペギー・リー、ジェリ・サザーンetc、色々な名歌手に夢中になりましたが、やはりアニタの技巧は群を抜いて素晴らしいですねえ。今回聴き直して、本盤の完成度の高さに脱帽せざるを得ませんでした。
アルバムはジョージ&アイラ・ガーシュウイン兄弟の代表作「'S Wonderful」からスタート。超絶技巧者オスカー・ピーターソンの電光石火の如きピアノと堂々渡り合い、中間部でテンポを落とした「They Can't Take That Away from Me」を挟む緩急自在の構成が凄い!かと思いきやジャジーな雰囲気の「Tenderly」、スイング感抜群の「Old Devil Moon」「Love Me or Leave Me」と続く流れは圧倒的で、この時点でアニタの魅力の虜になること保証付き。私生活ではマリファナ&ヘロイン中毒で何度も逮捕・拘留されるという如何にもジャズ的な人生を送った人ですが、十代後半からジーン・クルーパ、ウディ・ハーマン、スタン・ケントン等の大御所の下で鍛えたスキルは本物でした。
フランク・シナトラのヴァージョンが懐かしいヴァーノン・デューク作「Taking a Chance on Love」も快調で、極めつけはアニタお得意の急速スキャットが炸裂する「Them There Eyes」!ハーブ・エリスのギター、レイ・ブラウンのベース・ランニングの切れ味も素晴らしく、本盤屈指のナンバーと言えましょう。ラストを飾るリチャード・ロジャース作の名品「Bewitched, Bothered and Bewildered」を聴き終えた瞬間に私のジャズに対する興味も俄然高まった訳で、全く思い出深い1枚です。
ヴァーブ・レコード時代のアルバムをもう2枚。『ジス・イズ・アニタ』では、ファッツ・ウォーラー作の古典曲「Honeysuckle Rose」、これもヴァーノン・デュークの名曲「I Can't Get Started」、チェット・ベイカーの名唱が忘れ難い「Time After Time」、ヴィクター・ヤングの傑作「Beautiful Love」辺りがお薦めです。名バラード「A Nightingale Sang in Berkeley Square(バークレー・スクエアのナイチンゲール)」はアニタにしては今イチか?白人男性ジャズ歌手の傑物メル・トーメの感動的な歌唱を、何時か紹介させて頂きましょう。
『シングズ・ザ・ウィナーズ』では、デューク・エリントンの傑作「Take the "A" Train(A列車で行こう)」、ディジー・ガレスピー作「A Night In Tunisia(チュニジアの夜)」、十八番のスキャットを交えた「Sing, Sing, Sing」、邦題「南京豆売り」でお馴染みのキューバン・ソング「The Peanut Vendor」辺りが聴き物。傑作バラード「My Funny Valentine」がアニタにしては単調で、全般的に玉石混淆の感は否めませんが、収録曲がヴァラエティに富んでおり楽しめます。
アニタの録音はyoutubeでも多くの音源が聴けますので、色々検索してみて下さい。それでは今夜はここらでおやすみなさい。